9月14日午後2時1分に厚労省で作成された報告書案電子ファイルには「総入れ替え方式で行うことが適当」と記されていたのに、その日の午後10時33分には、「サンプルの入れ替え方法については、引き続き検討することとする」と書き換えられた。
9月16日の第6回会合で、姉崎部長は「総入れ替え方式ではなく、部分入れ替え方式を検討したいと思っている」と述べた。官邸の意向であることを阿部座長は察しただろう。結論を明確にしない中間的整理案が作成され、検討会は自然消滅の形になった。
その後、麻生財務相が同年10月の経済財政諮問会議で「毎月勤労統計については、企業サンプルの入れ替え時には変動がある…改善方策を早急に検討していただきたい」と発言。翌2016年9月30日には総務省内に「統計の精度向上及び推計方法改善ワーキンググループ」が立ち上げられた。
こうした経過をたどって、毎月勤労統計調査における中規模事業所を対象としたサンプル抽出は、2018年1月に、総入れ替え方式から部分入れ替え方式に変更されることになった。
しかし、2018年1月の変更はそれだけでは済まなかった。先述したようにベンチマークの更新が過去の補正なしに行なわれたうえ、東京都分の「復元」を不適切な方法で行うなど、何重もの平均賃金かさ上げが仕組まれたのである。
当時の厚労大臣は、コトの経緯を知っていたはずの加藤勝信自民党総務会長であり、今でも重い説明責任がある。彼は中江秘書官と姉崎・厚労省統計情報部が毎月勤労統計について話し合っていた2015年3月から9月にかけて、官邸の中枢、内閣官房副長官のポストにいたのだ。
事業所サンプルの入れ替え方式をめぐる一連の出来事は、あくまで2015年春から官邸が毎月勤労統計を問題視し、関与し始めたことを物語っているだけである。
2018年1月の悪だくみを決行させた“真犯人”を突き止めるには、当時の厚労大臣であった加藤氏や、統計調査を担当していた職員の話を聞かねばならない。
自民党が参考人招致を妨害して隠ぺいをはかろうとするなか、国会審議で真相にたどり着くには大きな壁がある。メディアがなぜこの件で加藤氏に迫らないのか、不思議で仕方がない。
image by: Twitter(@首相官邸)