「官邸の関与」が判明した統計不正。説明責任を持つ政治家の実名

 

官邸の動きが始まったのは、確認された限りでは、2015年3月からだ。

3月3日に、同年1月分の毎月勤労統計調査速報値が発表された。実質賃金はマイナス1.5%で19か月連続の減少となった。

名目だと2014年秋のゼロ近辺から2015年1月にはプラス1.3%まではねあがっていたにもかかわらずである。

もちろん、物価上昇に賃金の伸びが追いつかなかったということではあるが、アベノミクスの成果をあらゆる場面で示したい安倍官邸は納得できない。2015年1月に「サンプル総入れ替え」を行なった影響が出ているのではないかと、問題視した。

サンプル総入れ替えをすると、経営状態の悪い企業も入ってくるため、脱落せずに残ってきた企業群の旧サンプルより賃金の数値が下がるのが従来の傾向だ。2015年1月もそうだった。

影の総理といわれる今井尚哉総理秘書官(首席)や、のちの厚労大臣、加藤勝信官房副長官ら、アベノミクスにかかわる数値に敏感な顔ぶれが、官邸には揃っていた。

実際に動いたのは、中江元哉総理秘書官(現財務省関税局長)だ。さっそく3月31日、厚労省の姉崎猛統計情報部長(当時)ら2人を官邸に呼びつけた。

何が話し合われたのか。最近の国会で、中江、姉崎の両氏が語ったところによると、中江秘書官から「サンプル総入れ替えでは過去にさかのぼって数値が変わるためわかりにくい。経済の実態を表す統計のありかたについて専門家に意見を聞いてみたらどうか」と発言があったらしい。

総理秘書官の言うことは総理の意向。霞が関官僚なら誰しもそう考えるだろう。

参考人として出席した今国会で姉崎元部長は「秘書官のコメント、あるいは示唆として受け止めた。指示されたとは思っていない」と述べているが、実際のところは強い圧力を感じたはずだ。

姉崎部長は中江秘書官と面談して2か月あまり後の2015年6月3日、有識者による「毎月勤労統計の改善に関する検討会」を立ち上げている。中江秘書官の言葉を官邸の指示として受け入れ形にして示したということだろう。

だが、検討会を積み重ねるなかで、有識者の意見は官邸の思惑とは違う方向に傾いていった。

野党の要求でようやく公表された議事録によると、同年8月7日の第5回検討会で、阿部正浩座長は「当面、現在の総入れ替え方式で行うことが適当」と、とりまとめている。9月16日に予定されていた次回の第6回会合で、それに沿った報告書案が決まる手はずだった。

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