池田教授の懸念。入学式や就職活動の服装の画一化が招く国力低下

 

暑い日で、短パンにゴム草履というかつてのヒッピーのようないでたちで現れた郡司は、数式を駆使した数理生命学の話題を矢継ぎ早の早口で話し、参加者の大半は理解不能だったと思う。話の内容はともかくとして、その格好で新幹線に乗ってきたのかと、私はちょっと呆れたが、当時、日本における科学哲学の第一人者と目されていた、バリッとしたスーツ姿の村上先生を目の前にして、短パン・ゴム草履姿で、滔々と自説を展開する郡司を見て、これは大物だわと舌を巻いたのを覚えている。

温厚な村上先生もさすがに気分を害されたような感じもしないわけでもなかったが、もとより、そんなことに気が付く能力を持たない天才郡司は、講演の後、みんなと和気藹々と酒を飲んで散会となった。そのころには、村上先生も他の参加者も、郡司幸夫の服装のことはどうでもいいような雰囲気になっていた。理論生命学の最先端を走り続ける郡司は、その後神戸大学の教授となり、現在は早稲田大学の教授である。短パン・ゴム草履姿で新幹線に乗るような奴は教授にしないという偏狭な社会であったならば、郡司の才能は埋もれてしまったかもしれない。

制服というのは、奴隷養成の装置のようなものだと思っている私は、どんな服装でもいいじゃないかと思うが、奴隷になっていたほうが気が楽だという人が多い日本では、男子の制服はこれこれ、女子の制服はこれこれという慣例に従う義務はないという考えはなかなか広まらない

山梨大学に勤めていた頃、余りに暑い日はスカートを穿いて通勤したら涼しかろうと思いついて、一応、女房の許可を取ってからにしようと話したところ、恥ずかしいからやめなさいと怒られて、私の素晴らしい計画はお釈迦になった。スカートを穿いて通勤してもクビにはならなかったと思うけれどね。今の山梨大学は相当イカレているみたいなので、今だったらクビになるかもしれないな。

東大教授の安富歩は女装をしているという。20年ほど前、鷲田清一などと一緒に研究会をやっていた頃はまだ男装をしていたが、5年前に女装をした方が気分がいいことに気づいたのだという。自分の中の女性性を抑圧していたことに気づき、女装をして、女性として扱われると不安が消えるのだという。素敵じゃないか。人はそれぞれなのだから、どんな服を着てもよろしいのである

image by: milatas, shutterstock.com

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