そして、僕個人は、あの世界最大の反捕鯨団体を敵に回してまで、たったひとりで戦う八木景子、というひとりの映画監督に興味を持ち、追いかけたいと思ったまで。人生1回とするなら、世界を少しでも変える、こんな生業(なりわい)をしている監督を心底、羨ましく感じ、話を聞きたいと思ったまでです。
クジラを捕まえる捕まえない、は実はどうでもいい。日本政府が黙っちゃった案件に、NOを突きつけたこと。世界に誤解されたままで、それでもいいと思えなかった彼女の生き方に惹かれたから、協力した。これからも監督は、戦い続けます。ブルーベリートースト代と、水出しアイスコーヒー代は、まだまだ返せそうにありません。
上映後のアフターパーティー、まだまだ来場者の質問攻めにあっている監督に、挨拶して、帰ろうとした時、いちばん大切なことを聞き忘れたと思い出し、振り返りました。「あ。カントク、前から聞きたかったんですけど」。
──和歌山県に親戚いるの?
「いないけど、なんで」
──じゃあ、シー・シェパードに飼い犬殺されたとか?
「なにそれ?(笑)
──…どうして、この映画を撮ろうと思ったんですか。
「だから、なんども言ってるように、『COVE』の内容が偏見だらけで…。」
──そうじゃなくて。僕が聞きたいのはそういうことじゃない。まったく儲からない。ヘタしたら、身の危険まで。敵も多く作ることになる。経済的にも心身的にもマイナスなことの方が多いかもしれない。
意図を理解した監督は、こう話してくれました。
「40代半ば、なにをやってもうまくいかなかった。自殺が頭をよぎった時、亡き母が脳裏に仁王立ちして、こう言ってきた。何かをやり遂げてからでないと、こっちに来ちゃダメ、と。『その時に思ったんです。そっか、どうせ死ぬなら、その前に社会貢献、やるだけやって死のう』って」
そう、そんな人間が、偏見と誤解にまみれた社会現象を黙って見過ごすわけがない。そんな人間が反捕鯨団体ごときに引き下がらない。
シー・シェパードも、とんでもない女を敵にした・笑
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