4月10日の衆院文科委員会で菊田真紀子議員は、こう疑問を呈した。
「新制度がスタートをしたら、そのもとで大学の基準が統一されていくわけですよね。各大学の減免基準は現行よりも下がるということですね」
柴山昌彦文科大臣 「理論上そこには乖離が生じることがあり得ると考えておりますが、そのすき間をどうするかについて、各大学に対して調査をしっかりと行っていきたいと考えております」
曖昧な答弁である。基準が大きく異なっている現行の学費軽減制度を、新制度導入によっても続けるというのはかなり難しいのではないか。文科省が明確な方針を示す必要があるだろう。
菊田議員 「ごまかさないでほしい。各大学も、学生も混乱すると思う。ニセ看板の法案じゃないんですか。低所得者世帯の学生の授業料を無償化するかわりに、そのほかの世帯の授業料が負担増になってしまう」
これを否定できず、大学に調査をすると繰り返す柴山大臣に対し、菊田議員はさらに「国際人権規約の高等教育の漸進的無償化に逆行するのではないか」とたたみかけた。
国際人権A規約は1966年に国連総会で採択され、1976年に発効した。教育を受ける権利の完全な実現をめざし、初等教育は無償、中等教育、高等教育にも無償化を漸進的に導入すること、適当な「奨学金」制度を設立することを定めた。中等教育には高校も含まれる。
日本は1979年に国際人権A規約を批准したものの、中等・高等教育における無償化の漸進的導入については従わない「留保」を宣言した。
その背景には、学費の高騰があった。1975年頃から国立、私立とも大幅な大学学費の値上げが始まり、1979年の国立大学の授業料は74年の4倍、69年の12倍になっていた。
教育費軽減を求める世論に押された政府は、2012年9月になってようやく「留保撤回」を閣議決定し、国連に通告した。これにより、中・高等教育の無償化は国際的な約束事になっている。
菊田議員の追及に対し柴山大臣は「高等教育の漸進的無償化の趣旨にもかなうと認識している」と述べ、国際人権規約に沿っていることを強調したが、従来からある授業料減免制度が新制度によって消滅する恐れをぬぐいきれない答弁でもあった。
名ばかりの「無償化」でも、選挙戦では宣伝材料になる。「ドナルド」「シンゾー」と仲の良さをアピールする首脳外交ショーと同じく、真夏の国政選挙に照準を合わせた人気取り作戦の一つであろうが、もっとじっくり時間をかけて制度設計すべきではなかっただろうか。
生煮えの法案を十分な議論のないままに成立させる。安部政権らしいやり方だが、副作用は覚悟しなければならない。
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