名ばかりの「大学無償化法」、ニセ看板では問題など解決せぬ理由

 

周知の通り、近年、大学の学費高騰にともない奨学金の利用者が急増し、卒業後もローン返済に苦しむ姿が社会問題として取り上げられるようになった。

同機構の調べでは、大学(昼間部)における奨学金の利用者は1996年には21.6%だったが、2012年は52.5%にはね上がり、16年も48.9%と依然高い水準で推移している。学費負担が困難になっている層が、低所得だけでなく中所得の世帯まで広がってきたことを物語る。

低所得世帯の無償化が実現するだけでも前進といえるかもしれないが、これをもって「大学無償化と胸を張ってもらっては困るのだ。

問題はもっとある。無償化の対象になるためには大学等が一定の要件を満たす必要がある。実務経験のある教員を配置し学校法人の理事に産業界の人材を複数名任命しなければならないのだ。そんな条件がなぜ必要なのだろうか。

実務経験とは、学問の世界以外で働いたことがあるという意味だろう。産業界から理事を選任せよというのは、企業の儲けに役立つ人材育成をはかるのが目的と考えられる。

ただでさえ安倍政権には、基礎研究を重視せず、“富国強兵に役立つ即戦力の人材養成ばかりを大学等に求めているのではないかという疑念がつきまとう。

恣意的な匂いが強い「要件」の中身に、識者から厳しい批判の声が上がった。

大学の自治や学問の自由への介入を引き起こす危険性を持っている。支援対象者は修学支援が行われないからその大学は選べないというような形になってしまって、選択する自由を狭めてしまう可能性がある」(大内教授、国会陳述より)

特定分野の実務経験があっても、基礎理論を含めた体系的講義ができるとは限らない。大学は、学問のための機関であって、その意義は職業訓練に限られない。社会のニーズや就職しやすさを援助条件にするなら、今回の法律は、憲法・条約の求める教育無償化政策とは異なる。
(木村草太氏、5月19日沖縄タイムスプラスより)

では、新制度の対象となる学生は何人くらいで、これに要する予算はいくらかかると想定しているのだろうか。

3月22日の衆院文科委員会で、伯井美徳・高等教育局長は次のように答弁した。

「高等教育段階の全学生の約2割の75万人程度になると想定し、所要額は約7,600億円と試算をしている。内訳は、給付型奨学金が最大約3,500億で、全額これは国費負担。授業料減免は最大約4,200億で、そのうち約500億円が地方負担、残りが国費です」

これだけの予算を要する新制度により、かえって先行き不透明になったものもある。国立大学等が独自に行っている現行の授業料免除制度だ。

授業料免除制度は大学によって多少の違いがあるようだが、免除が受けられる所得基準は大学無償化法より高い。つまり、中所得世帯の子弟でも対象となる可能性があるのだ。

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