もう国家に意味はない。安倍一強を支える「無関心」という恐怖

 

アイデンティティー喪失でも居座り?

自民党は予め勝敗ラインを自公合わせて過半数」という思い切り低いところに引いているので、その線を越えさえすれば「勝った」と強弁するのだろうが、2/3が到底手の届かないことになれば、向こう3年間、つまり安倍首相の自民党総裁任期である21年9月を超えて22年7月の参院選までは改憲を発議することができない。まさに改憲を最大使命とする安倍首相としてはアイデンティティー喪失の危機であり、「敗北以外の何物でもない。当然、それでもなお総理総裁に留まるのは何のためであるかを党内にも国民にも説明しなければならなくなる。

それが辛いので、参院選を通じて「憲法を議論する党か、議論しない党かの選択を迫る」と呼号し「改憲の安倍の体面を保とうとしているがその言葉に迫力はなく、有権者の関心を引き寄せることは難しい。

安倍首相の周辺からは、「いや自公維で2/3に届かなくても、かえって他の野党の協力を得やすくなる」という声も上がっているが、これは強がりというもの。「他の野党」とは言うまでもなく国民民主党のことで、同党内に改憲に同調したがる輩がいることは確かであるけれども、この参院選を野党共闘の一角で戦って、議席を減らしながらも何とか現有24に近い議席を確保しようとしている同党が、選挙後にいきなり丸ごと安倍改憲の旗に駆け寄るということはありえず、せいぜい何人かがこぼれて行くという程度だろう。

仮に自公合計が140、維新が14、国民民主が24として、全部を足せば178になるが、そうはならない。自公維で154なので国民民主から10人こぼれてくれれば164になるということなのだろうが、それでも、安倍首相がどうしても9条に手を着けようとすれば公明28は脱落するからまた計算が合わなくなる(公明は広義での改憲勢力ではあるが、9条改憲勢力ではない)。

従って、この選挙を通じて安倍首相が改憲策動を巡らせる余地はほとんどなくなることになる。

問題は「無党派」ではなく「無関心」

普通であれば、改憲の旗印を半ば失った安倍首相はダッチロール状態で墜落してもおかしくはないが、必ずそうなるとは限らない。むしろ、実質的な敗北にもかかわらず、まだダラダラと政権に居座り続ける可能性のほうが大きい。それを決定づけるのは、野党がどれほど健闘して、自公で過半数を割らせるのは難しくても、それに近いところまで押し込んでいくかどうかによる。

その場合の野党にとっても大きな壁は、「安倍一強を支えているのは実は無関心」であるという恐ろしい意識構造である。五木寛之は、「サンデー毎日」5月26日号の中沢新一との対談で、「なぜ安倍政権がこれほど長続きしているかというと、もう国家に意味がないからです。政権が信用されているのではなく、人々の関心がそこにないということではないか」と述べている。

また高村薫は4月30日付「朝日新聞」で、「大人も子どもも日夜スマホで他者とつながり、休みなく情報を求めて指を動かし続ける。そうして現れては消える世界と戯れている間、私たちはほとんど何も考えていない。スマホは出口が見えない社会でものを考える苦しさを忘れさせる強力な麻酔になっている」と指摘した。

大宅壮一が始まったばかりのテレビ放送について、「紙芝居以下の白痴番組が毎日ずらりと列んでいる。ラジオ、テレビという最も進歩したマスコミ機関によって『一億白痴化運動』が展開されている」と喝破したのは1957年のことで、それは人々が画面から溢れ出てくる映像をひたすら受動的に眺めるばかりで、人間らしい想像力や思考力をどんどん低下させていくという意味だった。それから半世紀以上が過ぎてスマホの時代が来て、もっと狭い画面の中に魂を吸い取られてしまうような若者が増えていく中で、仮想世界と戯れるばかりでほとんど何も考えようとはしないという恐ろしい傾向はさらに深まった。それが実は「安倍一強」を支えているのだとすると、これを打ち破るのは並大抵のことではない。

image by: 自由民主党 - Home | Facebook

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年7月1日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分税込864円)。

こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー

初月無料の定期購読手続きを完了後、各月バックナンバーをお求めください。

2019年6月分

  • [Vol.399]自分の祖先は魚類や爬虫類だったことを思い起こさないと(2019/6/24)
  • [Vol.398]統計の元を辿ると新聞の嘘が分かる(2019/6/17)
  • [Vol.397]ジャーナリストの訓練は「新聞の読み方」から始まる(2019/6/10)
  • [Vol.396]インテリジェンスを欠いては総理大臣は務まらない(2019/6/3)

※ 1ヶ月分864円(税込)で購入できます。

高野孟この著者の記事一覧

早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 高野孟のTHE JOURNAL 』

【著者】 高野孟 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週月曜日

print
いま読まれてます

  • もう国家に意味はない。安倍一強を支える「無関心」という恐怖
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け