中東危機やウクライナ戦争の背後で、静かに進みつつある世界秩序再編の動き。各国首脳の強硬発言や軍事行動の裏側には、次の時代の主導権を巡る複雑な「交渉ゲーム」が存在しているようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、中東、欧州、アジア太平洋地域で同時進行する国際情勢の変化を分析。さらに「戦争の時代」ではなく「秩序交渉の時代」として現在の世界を読み解くべき理由を解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:中東危機の裏で進む世界秩序再編の交渉ゲーム
「領土の奪い合い」から「機能の奪い合い」へ。中東危機の裏で進む世界秩序再編の交渉ゲーム
ネタニエフ首相 「トルコは新たなイランになるだろう(Turkey will be a new Iran.)」
エルドアン大統領 「トルコはイランにはならない。しかし、イスラエルをGreater Turkeyプロジェクトの一部に加えてあげることはできる(Turkey is not Iran. But, We can make Israel as a part of the Greater Turkey project.)」
今週に入ってこのようなやり取りの応酬が行われています。
また、ネタニエフ首相が「イスラエルは、ガザ、レバノン、イラン、エジプト、そしてトルコと同時に戦争を実行することができる」と述べたのに対し、エジプトのシシ大統領とトルコのエルドアン大統領は声明で「もしそれをイスラエルが望むのであれば、我々はイスラエルと一戦交える用意はできている」と返し、緊張が一気に高まっています。
表面的には、いつもの中東特有の強気な発言合戦に見えるかもしれませんが、私はそうは見ていません。
このイスラエルの威嚇に対して、アメリカ政府は特に反応していないようですが、水面下では怒り心頭のようで、かつトランプ大統領は「私がイランと和平を実現しようとする試みを台無しにするもので非常に不愉快だ。仮にイスラエルがそのような馬鹿げた行動に出ても、アメリカは助けることは無いし、もしかしたら私がイスラエルを攻撃する最初のアメリカ合衆国大統領になるかもしれない」と強烈な不快感を示したことで、アメリカとイスラエルの亀裂は修復不可能な状況にまで悪化していると思われます(実際にトランプ大統領は対イスラエル軍事支援を縮小または停止する旨、SNSで公言しています。
ネタニエフ首相は「イスラエルはアメリカの助けはいらない。イランやレバノンの攻撃を止めるつもりはなく、支援もお墨付きも不要だ」とここにきて、対立が深まっているように見えます。もしかしたら、お馴染みの政治ショーかもしれませんが、ちょっとこれまでとトーンが違うのが気になるところです)。
世界各地の紛争当事者と向き合い、数多くの修羅場を見てきた立場から申し上げると、危険なのは激しい言葉の応酬そのものではなく、本当に危険なのは、当事者が自らの国内事情に縛られ始めた時です。現在のネタニエフ首相はまさにその状態にあるように見えます。
米国とイランによる和平協議は、イスラエルの期待とは異なる方向へ進みました。米イラン間の和平協議から爪弾きにされ、かつイスラエルからの要求が悉く無視された状況を受け、イスラエル国内の世論調査では9割近くの回答者が「今回の米イラン間の和平協議において、イランは2月28日の攻撃以前よりもより多くのものを手に入れた」と答え、また「イスラエルの国家安全保障は低下している」と、ネタニエフ首相と政権の反応に否定的な意見が激増しているため、ネタニエフ首相としては、国外から何と言われても、秋に総選挙を控える身としては“国民の懸念の声”に応えるべく、ヒズボラ掃討を掲げた対レバノン攻撃を継続し、かつ可能であれば、イランへの攻撃も辞さない姿勢を掲げ続ける必要性に駆られています。
国内世論が厳しくなればなるほど、指導者は強硬姿勢を取らざるを得なくなります。そして、それこそが歴史上、多くの戦争が拡大してきた理由でもあります。
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