トランプ米でもイスラエルでもイランでもない。なぜ中東情勢の“最重要プレイヤー”が「中国」なのか?

 

すでに終焉した「戦場で勝った者が秩序を作る」という時代

私は今、中東で起きていることを「戦争」とは見ていません。もっと大きなものです。それは、【戦後秩序を誰が設計するのか】を巡る巨大な交渉です。

多くの報道はミサイルや空爆を追いかけ、被害の状況をつぶさに報じます。しかし、本当に重要なのは外交交渉のテーブルです。

戦場で勝った者が秩序を作る時代は終わりました。これからの時代は、誰が交渉の場を設計するかによって勝者が決まります。その意味で、現在の中東情勢を理解する上で最も重要なプレイヤーは、イスラエルでもイランでも、そしてトランプ大統領のアメリカでもありません。

それは中国です。

スイス・ビルケンシュトックで行われた米イラン協議は、その象徴的な出来事でした。ビルケンシュトックで行われていた米・イラン間の協議の直前にイスラエルがレバノン南部を空爆したのに加え、イスラエルがガリバフ議長とアラグチ外相の暗殺を計画していたことが暴露され、メディアがまだ会場にいた協議の冒頭、イランのアラグチ外相が、仲介者のシャリフ首相(パキスタン)とカタールのムハンマド首相兼外相に挨拶した後、退席して抗議の意を示すというパフォーマンスも行われ、米イラン間の協議は冒頭から波乱含みの展開です。

しかし、それでも協議が続けられたのはなぜでしょうか。

それは米国もイランも、この協議を失敗させる余裕がなかったからです。

ちなみに現在、トランプ政権にとっての最優先事項は何でしょうか。今回の開戦理由にも挙げられていたイランの核問題でしょうか。

必ずしもそうではありません。現在のトランプ政権にとって最大の課題は【中東戦争の管理】です。それは【ホルムズ海峡の安定の実現によるエネルギー価格の安定】であり、それによってもたらされる【世界経済の安定の回復】によるアメリカの信頼性(credibility)の再確認につながり、そして【世界における中国との競争の管理】へと直結するものです。

これらを考えれば、無制限な中東戦争を続けることはアメリカの利益にならないのは明らかです。だからこそトランプ大統領は停戦を急ぎます。

一方のイランは、自国が実際には軍事的に厳しい状況に置かれている現状を理解しているからこそ【核問題を先送りしながら経済的利益を確保する】という極めて現実的な戦略を選択しました。

その結果、【軍事的にはアメリカ優位】で【外交的にはイラン善戦】という構図が生まれ、それが米イラン間の非常にデリケートかつ脆弱な安定という形で現れています。

ここで非常に興味深いのは、その隙間・空白を縫うように中国が存在感を高めていることです。中国は実際には戦争をしていませんが、着実に影響力を拡大しています。イランや周辺諸国に対する復興支援や人道支援の提供、イランや中東諸国、そしてロシアなどとのエネルギー協力の拡大、BRICSや上海協力機構(SCO)というあらゆる外交ツールを活用しながら、中国は【中東における「不可欠な仲介者」という地位】を築こうとしています。

ここで重要なのが、影響力を伸ばすにあたり、中国が徹底する方針です。中国は中東の誰にも体制変更を要求しませんし、民主化も要求せず、また政権交代も要求しないという“内政不干渉”の方針を外交において徹底しています。

そのため、中国はイランとも、サウジアラビアとも、UAEとも、カタールとも、そしてイスラエルとも話せるという、非常に稀有な立ち位置を確立しており、複雑怪奇に絡み合う中東地域における力のバランスを維持するうえで、この強みは極めて大きいと言えます。

【戦場で勝つよりも、交渉の場を支配する方が長期的な影響力は大きい】という鉄則を、今、中国は実践しているのです。

実際、現在の中東では情報が中国へ集まり始めています。もしこの流れが続けば、中国は単なる経済大国ではなく、【中東秩序の共同設計者】という立場を獲得するかもしれません。

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