日米の勤務医「給与差拡大」の最大理由はこの病気だった

 

アメリカの医療費が高い理由。ボーモルのコスト病

私の家族が、先日アメリカに滞在中に口内炎を発症し、ある病院の外来を受診しました。1回きりの受診で幸い良くなりました。その時の外来の医師も親切に対応してくれたとのことで私の家族も満足はしていました。しかしその後、私のもとに約10万円もの医療費の請求書が届きました。旅行者保険に入っていたために、全額保険から支払うことができましたが、もし加入していなかったら全額自己負担となっていたところでした。

アメリカの医療費は対GDPで世界一高いことは有名です。しかしその原因についての評価には間違った説が米国内の論文でもよくみられます。医療機器や事務管理、医療過誤保険の費用が増大したのが最大の原因だ、などの論調が多いですが、これらはマイナーな理由です。最大の原因としての正しい診断は「ボーモルのコスト病」です。この病気によって、医療従事者の給料が高くなり、アメリカの医療費が高くなっているのです。

ボーモルのコスト病は資本主義経済でコモンにみられるものであり、経済学者のボーモルとボーエンが1960年代にすでに指摘していた疾患です。芸術分野では、クラシック音楽を演奏するのに必要な演奏者の数や、ある演劇を実演するのに必要な舞台役者の数は、昔も今も変わらない、つまり生産性は上がりません。しかし、資本主義における労働市場の性格上、低生産性の分野であっても、賃金の上昇は避けられず、コストは増大してしまうのです。

芸術分野以外では、代表的な生産性の上昇がみられにくい産業には、教育と医療があります。ここで言うところの低生産性とは、人員削減を行うことが困難であり、労働集約的産業セクターだからなのです。生産性をアップさせた産業における知的労働者の給料が増えた結果、そうでない産業セクターである教育と医療における知的労働者の給与もそれに引きずられるかたちで増えていったのです。アメリカでは子供の教育費が高いから勤務医の給与が高い、というのも因果関係ではなく、両方とも同じ病による結果なのです。

さて、バブル崩壊後、日本の産業は全体として生産性を上げることができませんでした。そのため医師の給与も上がらなかったのです。日本経済は、この病気にかからなくてすんだのですが、そのせいで勤務医の年収は勤務内容に比べて低くなっています。アメリカ臨床留学に行った多くの日本人医師が日本に帰国せずに、アメリカの病院で勤務し続けようとする理由は、この給与差にもあります。

文献:Eric Helland, Alexander Tabarrok, and the Mercatus Center at George Mason University. Why Are the Prices So Damn High? Health, Education, and the Baumol Effect. 2019. E-book.

image by: Shutterstock.com

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