韓国と揉めている場合か。「再入亜」でしか日本が生き残れない訳

 

2.経済・通商政策的次元:東アジアのサプライ・チェーン

最近、日本政府は韓国に対して、半導体製造のコア素材となるフッ化水素(腐食剤)・フッ化ポリイミド(保護膜剤)・レジスト(感光剤)の3品目の輸出規制を強化する措置を発動し、それに抗議する駐日韓国大使に対し日本外相が「極めて無礼」という異様な言葉遣いで発言を遮るという事態があったが、これこそ日本の東アジアに対する戦略的混乱という以前の戦略そのものの不在を象徴する。

21世紀、日本は韓国、中国をはじめとして東アジア、ひいてはユーラシアとの関わりなくしては生きていくことができない。なぜなら、第1に、世界の富の中心は20世紀には米国にあったが、21世紀にはそれが東に移動し、中国・インドを筆頭とするユーラシアに移りつつある。米ペンタゴン直結のシンクタンク「ランド研究所」が最近の報告書で示した2050年の世界構図はこうである。

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安倍晋三首相は「インド太平洋構想などと言って、世界3位の米国と8位の日本が手を結べば2位のインドを1位の中国から引き剥がすことが出来、中国包囲網を形成することができると考えているようだが、それは戯言にすぎない

そうではなくて、日本は第2に、日韓中の連携を軸として中国とインドが牽引する21世紀ユーラシアの大繁栄に噛み込んで行かなくてはならない。それこそが実は日本の成長戦略の肝心要であって、「アベノミクス」は一国資本主義的に国内の景気対策にのみ関心を集中し、しかもその景気の問題をデフレ(モノとカネのバランス失調)と誤認して異次元金融緩和というトンデモ方策に走って大失敗したが、本当の需要はユーラシアにある。

第3に、日本がユーラシアの旺盛な需要に関わってそこから元気を環流させる実体的な回路はすでにでき上がっていて、それが日本にまだ多く残っている高度モノづくりの力を頂点とする垂直分業的なサプライチェーンである。日本の輸出の圧倒的大部分は資本財およびそれに準じる工業用素材で、それを知るには一般的な貿易統計ではなく資本財と消費財を区別した日本関税協会の貿易概況の「商品特殊分類別輸出」を見なければならない。

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2017年の輸出総額78兆2,865億ドルのうち資本財39兆7,732億ドル、さらに工業用原料18兆1,523億ドルを足すと57兆9,254億ドルで総額の74%に達する。そのすべてがそうであるとは言えないが、多くは日本でしか作れないもしくは日本のものが一番品質が優れていると高評価を得ているハイテク製品や超精密加工部品や高性能素材などで占められていて、つまり日本は「高度資本財供給国」として世界貿易の中で独自の立場をすでに作り上げている。それは実体的には、日本で作られた高性能素材や部品などを韓国や中国などが輸入し、それを用いて製品の核となる重要中間部品などを生産し、それを中国やベトナムやミャンマーやバングラデシュなどに輸出して大量生産により消費財としてアジア域内や米欧市場に供給する立体的なサプライチェーンとして発展しつつある。ここに生きる道があるということを全く理解していないのが安倍政権である。

理解していれば、例えばFTA/EPAへの取り組みも、

  1. まずは「日韓中」でしっかりと軸を作り
  2. 次に、それプラスASEAN 10カ国にさらにインド、オーストラリア、ニュージーランドも加えたRCEP(東アジア地域包括的経済連携協定)
  3. そうやって東アジアの都合をしっかりと固めた上で米国を含めたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に立ち向かう

──という順序になるだろう。日本は真逆を歩もうとして最初から躓いて今は展望を失っているが、これも米国の顔色ばかり窺ってアジアを軽視する「脱亜・入欧思想を今なお引き摺っているために日本の生存戦略が立てられなくなっていることの表れである。

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