投資もトップ人材も足りない。AIでも世界に遅れを取る日本の明日

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AI開発の進歩は目覚ましく、現在は医療や製造業円滑化に向けた実用化に、各国が凌ぎを削っている状況です。仮に実用面で中核を担えば、莫大な富を生むと予測されるAI市場に日本が食い込む余地はあるのでしょうか。ジャーナリストとして数々のメディアで活躍中の嶌信彦さんは、自身の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』で、日本企業のAI開発の現状や問題点を記しています。

AIで巻き返しできるか

日本で人工知能(AIを研究し事業に生かそうとする企業が急速に増えている。数多くのデータを超高速に複数のレベルで分析し、複雑なシステムの理解や独自のシナリオの作成などに活用しようとしているのだ。ただAIとの間で、人間同士のような対話を行ない、特定の仕事について有効な意思決定をある程度支援することまでは出来ても、人間にとって代わる役割をAIが果たすことについては日本は決定的に遅れているという。

将棋、囲碁のAIや自動運転の技術など、一つのことに特化した人工知能については人間に匹敵する能力を持つAIは実現できつつあるが、人間のようにあらゆる場面などを想定し人の振る舞いと同じように何でも出来る人工知能はまだ実現されていないからだ。

コンピューターを活用して短時間で推論したり回答を見出す手法は1960年代前後から行われていた。ただ、高度な計算で問題解決を試みることはできても、AIには人間に備わっている常識がなく、突拍子もない結論を出すためAIブームの熱は一時的に冷え込む時代を迎えた。しかし最近のAIは自ら学習する機能深層学習やビッグデータを分析することで画像や映像から必要な情報を取り出し、ある程度のことを考えることが出来るようになってきた。その結果、医療や小売スポーツ製造などのアプリを組み込むことで用途が広がってきたのである。

人間はインターネットを活用することで様々な知識、応用を広げたが、最近のIoT(モノのインターネット)では、画像を見てロボットに遠隔医療を行なわせたりすることも可能になると予測されている。こうした一つのことに特化して奥を深める人工知能は、「特化型人工知能」と呼ばれ、この分野と範囲は次々と広がっている。

むろん、今後は人間を超える知能を持った人工知能を生み出し、さらに人間より賢い人工知能の開発によって人間には想像しにくい人工知能を生み出すことも可能といわれ、2050年までにその域に達するとも予想されている。AIが人間の知性を超え人間の想像を超えた世界を作り出してしまうことで「シンギュラリティ(技術的特異点)」といった言葉まで登場している。例えばAIを操作する攻撃型ドローンを人間が遠隔地から操作し実戦導入すると、ドローンが攻撃判断を行ない自動戦争”に発展する懸念すらあるのだ。

製造業界では、データを経済に生かすデータエコノミーが中核技術になるといわれ、最先端の研究を常に手がけておかないと経済競争に置いていかれるだろう。しかも日本企業では20年代半ばに6割の基幹システムが老朽化するといわれ、AIやビッグデータを使う企業はますます遅れることになる。にも拘わらず日本のシステム投資やデジタル化への投資は伸びておらず保守にばかりカネをかけているのが実情だという。

国際的調査によると世界でAIのトップ級人材は2万5千人ほどいる。そのうち半分はアメリカ、次いで中国が1割、さらに英、独、カナダなどと続くが日本は6位で3.5%にすぎない。しかもAI研究に必要な多様性でも見劣りがするという。このため、AIの重要性に目をつけた企業は独自に人材獲得や好待遇で確保に走り始めている。AIの研究開発投資は今後の日本企業の競争力を左右することになりそうだ。

(電気新聞 2019年9月2日)

image by: Shutterstock.com

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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