香港には介入せず、台湾を睨む習近平の中国。問われる日本の戦略

 

様々な情報筋からの情報を分析すると、「これは香港での出来事として、対応は香港の行政府に任せ、あえて北京としては手は出さない」という方針のようです。深センに大規模な部隊を派遣していましたが、その規模は、今や縮小の一途をたどっています。

そして今回の発砲事件の余波が、仮に香港行政府が実力行使に踏み込んででもデモを終わらせるという暴力的な結末であったとしても、北京は口も手も出さない、というのが私の見解です(まあ、“懸念”は表明するでしょうが)。

その背景には2つのポイントがあるのではないかと思います。1つ目は、香港が英国から返還された約束の項目に『今後50年は香港政府の自治を認める』という条項がありますが、これを逆手にとれば、「いずれ香港は、完全に中国に返ってくる」という認識が北京にあります。

ゆえに今は、香港で起こっていることに対して、あえて距離をとり、あくまでも香港行政府に今回の責任を負わせることで、国内外情勢において、中国共産党支配体制に与える悪影響を最小限に抑えるというリスクマネージメントが行われているように思われます。

時折、懸念を示すことで、ウイグル自治区などへの牽制は行っていますが、英国との“約束”に縛られている今は、中国による香港への実力行使はぎりぎりまで控えるのではないかと考えています。習近平国家主席への批判として、「彼には強硬手段に訴える勇気はない」とのものがありますが、私は、綿密に練られた中長期的な戦略に基づいた『意図的な非介入』だと考えます。

2つ目は、予想以上に早く進んだ上海の成長です。特に国際金融センターとしての上海および証券取引所の成長は著しく、返還時、北京政府が香港に期待していた『中国経済の国際化のハブ』という役割を果たせるのではないかと思われるレベルに成長しました。それが今回のデモを受け、北京からすると、香港の凋落は惜しいが、同時に上海の成長ゆえに、危機的な状況ではないとの分析があると聞きます。

そして、先述のロンドン証券取引所と香港証券取引所との合併・協業の無期延期の背景には、ロンドン証券取引所からすれば、すでに香港に当初期待していたアジアマーケットへのアクセスポイントとしての役割は、十分上海で果たすことができているのではないかとの思惑もあるようです。

中国のメディアでは「今回の香港での一連の騒動は、アメリカによって仕掛けられた対中ゲームだ!」との批判を行っていますが、いろいろな状況に鑑みると、もしかしたら、上海の勢力による仕業ではないかとの陰謀論にも似た分析もできるのではないかと思われます。

実際の意図はわからないにせよ、不思議なぐらい、今回の香港でのデモからは、北京政府は距離を置き、国際的な批判をかわそうとしているように見えます。

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