役人の不正は徹底的に叩く。大統領も選挙で決める韓国市民の潔さ

 

ここで、13代のノ・テウ盧泰愚 在任期間:1988~1993年から全部選出方法は直接選挙で選出となっている点に注目していただきたい。韓国は今も勿論大統領は直接選挙で選んでいるのだけれど、それは昔からずっとそうなのではなかったのだ。

1代目のイ・スンマンのとき、彼は1代、2代、3代の大統領になるわけだが、2代目と3代目のとき、かたち上は一応直接選挙となっているけれど、このときの不正選挙が目に余るものがあった。田舎の部落にイ・スンマンの参謀が入り、お年寄りたちに金を渡して「イ・スンマン」と書かせたり、開票の場で、わざと停電にして、そのどさくさにまぎれて票を「イ・スンマン」と入れ替えたり、考えられるありとあらゆる方法で不正がなされたこれに国民が爆発する。

テグの高校生がその火蓋を切ってデモをはじめると、たちまち全国に広がっていく(高校生ってのがすごい!)。時の権力者に真正面から立ち向かう市民の戦いは、このときが近代になってからは最初である。1代から3代目までやりながらも、さらに第4代目の大統領にまでなろうとしたイ・スンマンであったが、結局、市民代表5人との面談で下野することを決心する。

そのときの5人のうちの一人のインタビューを見たことがあるが、大統領は部下からの意見は聞かなくなっていたため(部下も大統領には何も言えない雰囲気になっていた。いつの時代もどこの国でも同じ)、市民5人で編成した決死隊みたいな感じのグループが、直でイ・スンマンと向き合ったのである。5人を前にしてもはじめは一言もなかったイ・スンマンであったが、数時間の後、「国民がみな、自分にやめろといっているのか」と5人に聞くと、5人ははじめから申し合わせてでもいたかのように同時に「はい、おりてください」と言ったという。

このときのデモによる大統領下野を4.19革命」(サ・イルグ・ヒョンミョン)と呼んでいる。1960年4月19日の出来事である。このときの市民の犠牲者は統計があるだけでも186人にものぼった。とてつもない市民行動だったわけだ。このときの伝統がその後もずっと韓国には生き続けている

その後は1980年5月18日の「5.18(オ・イル・パル)」=「光州事態(クァンジュ事態)」でのデモと軍の発砲による市民の犠牲(民主化というものを、このときの市民のデモおよび犠牲によって勝ち得たのである)。

そして1987年6月29日の「6.29(ユク・イ・グ)宣言」。これは時の権力者、民主正義党代表の盧泰愚(ノ・テウ)が直接選挙制の改憲要求を受け入れて発表した特別宣言である。このとき以来韓国は大統領選は必ず直接選挙」の形態となった。これらはすべて市民のデモ行動によって勝ち得られたものであり、その伝統は今も連綿と行き続けている。

2002年のワールドカップのときの「テーハンミングク、チャチャン・チャ・チャンチャン」というあのリズムも懐かしいけど、あのときのロードビューで市民100万人が街に繰り出し応援していたわけだけど、あれはあのとき急に出来心ではじまったわけではなくて、そういう伝統が韓国には通奏低音のように脈々と生き続けていたということなのである。

これがクールでなくしてなんであろうぞ。

話を大統領にもどすと、大統領を国民が直接選挙で選べる爽快さはどういった感じなのであろう。韓国で暮らしながら、ハスに見ているだけだけれど、そのダイナミックさ爽快感清涼感躍動感は、はためにもよくわかる(ちなみに、外国人には大統領の選挙権がない。妻の選挙に同行するのが関の山なのではあるけれども)。

わが日本はどうか。選挙で選べるのは党であり(もちろん個人もあるけど)、いちばん多く票をとった党の党首が首相になる仕組みだ。国の長おさを直接選べない歯がゆさは、いかなることばをもってしても表現しきれるものではない。

いつか日本も国の長を国民が直で選べる時代がくるんだろうか。そのためには、国民の意識レベルがあと10段階くらいあがらないとだめなのかもしれない。日本には日本のやり方があるんだと言う向きもあろうけれど、今の日本のやり方だって昔、だれかそこらの人間が決めたものにすぎず、いつだって代えられるシロモノだ。

国の長は、国民の直の選挙で選んだほうがすっきりすることだけはそういう経験のない日本の方々にだって、すぐにご理解いただけるはずだ。そんな日がなるべく早く来ることを願いながら、今回の筆をおく。

image by: Liukov / Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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