「一筆入れろ」はNG。社員が書いた「弁償します」文書は有効か

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社員に対して会社のものや損害を「弁償」させるのは法律的に難しいと言われますが、たとえば本人提出の「弁償します」という内容の書面がある場合はどうなるのでしょうか。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、実際の裁判ではどう判断されたのかを紹介しています。

本人提出の「弁償します」の書面は有効か、無効か

私が割と多くいただくご相談に「社員に弁償をさせたい」というのがあります。例えば、飲食店の会社ですと「落として割ったお皿やグラスを弁償させたい」、建設業の会社ですと、「ぶつけたトラックのサイドミラーを弁償させたい」などです。

何かを「弁償」した経験はもしかしたらみなさんもあるかも知れません。借りた本を無くしてしまい新しい本を買って返したとか(これは私も経験あります)、何かを壊してしまいその分のお金を払ったなどです。これらの経験がある人の感覚から言うと「社員に弁償させるというのはあまり違和感が無いかも知れません。

ただ、法律的に言うと社員に弁償させるというのは難しい場合が多いでしょう(わざと壊した場合などは別ですが)。ちょっと難しい言い方になりますが会社には「報償責任」があるからです。これは簡単に言うと「会社は社員の働きによって利益を得ているのだから損害があった場合はそれも負担すべき」という考え方です。

ではこれが、社員本人が弁償しますという書面を提出していた場合はどうでしょうか。

それについて裁判があります。ある製造会社で、その社員が残業代の未払い、不当解雇などのいくつかの点で会社を訴えました。その中に「給与返金の書類は無効である」というのがありました。会社は、その社員のミスにより顧客から損害賠償の請求をされていました(その社員がその当時担当責任者をしていました)。そこで、その社員は会社に対して以下のような書類を提出していたのです。

私は自らの職務怠慢で、会社やお客様に重大な問題を起こしてしまいました。よって、〇月分の給与を自らの意思で会社に全額返金させていただきます。

はたして、この書類は有効なのか、無効なのか。文面的には「自分の責任である」と認めていますし、その社員が自ら提出もしています。ではこの裁判はどうなったか。

裁判の結果、この書類は「無効であるとされました。その理由は以下の通りです。

  • 給与返金の前提として、その社員が損害賠償のどれだけ責任を負うべきなのか、いくらくらいの金額を負担すべきかの話し合いをした形跡が無い
  • 返金するに至った具体的な経緯が書かれていない
  • 損害賠償請求からすでに2年以上が経ってからその責任をとって返金を行うというのは不自然であり、むしろその件を契機として返金を迫る会社の働きかけの存在が疑われる

いかがでしょうか。今回の事例に限らずですが、「本人から書面とサインをもらっておけば大丈夫」と考えているとそれは非常に危険です。書面とサインはもちろん重要ではありますが裁判などで見られるのは「それは本当に自分社員の意思で提出したのか」です。

「弁償させたい」の気持ちはもちろんわかります。その原因が本人の不注意だったりその後の反省が全くなかったりであればなおさらでしょう。ただ、そこで無理に(もしくは誘導して)書類を提出させるなどしても万が一の場合は今回の裁判のようになりかねません。

それであればその場の弁償にこだわるのではなく人事評価や賞与の査定に反映させていくのはいかがでしょうか。そうすれば人材育成にもつながりますし長期的に見て会社の損害を減らすことにもなります。

ただし、損害部分を極端に人事評価に反映させたり損害額と同額を賞与査定からマイナスするのはもちろん問題になる可能性がありますのでご注意を。

image by: Shutterstock.com

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【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

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【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

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