去る10月31日、北朝鮮は日本海に向けて短距離弾道ミサイル2発を発射しました。10月2日にも同様に発射していることから、日本政府は警戒感を強めています。北朝鮮が繰り返す弾道ミサイルの発射。相次ぐ空からの脅威に、不安を感じる人も多いでしょう。メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』の著者で、北朝鮮研究の第一人者の宮塚さんは、最近の金正恩党委員長の大胆発言を分析しつつ、冬の到来とともに始まる新たな脅威や、日本で発足した対抗組織について展望を語っています。
北朝鮮だより:日本海を守る頼もしい組織が青森に発足
11月に入り「北風」の冷たさが身に染みるようになったが、北朝鮮の金正恩委員長はそのような季節の移り変わりには「我関せず」とばかりに「白頭山で白馬に跨っている雄姿」を披露したり、観光名所の金剛山を現地指導しては韓国側が建てた建造物などを「我が国の情緒気風に向かないから撤去しろ」とのたまったかと思うと、「こんなくだらないものを誰が作ったのか。前任者の責任だ」と、自分の父である金正日を「無能者」呼ばわりすることも躊躇わなかったが(この“前任者の責任”については、金正日ではなく、当時の計画実務担当者などを指すとも言われている)、実に大胆な発言である。
金正恩はさらに、10月31日午後4時25分頃に平安南道・順川付近から日本海に向けて短距離弾道ミサイル2発を発射した。「朝鮮中央通信」は11月1日に「国防科学院が“超大型放射砲(多連続ロケット砲)”を再び試射し、成功した」と報じ、連射システムの「完璧性まで検証され、奇襲攻撃で敵の目標区域を焦土化できるようになった」と強調した。
金正恩は国防科学院の報告を受け「大きな満足の意を表した」と言うが、11月1日の『労働新聞』はなぜか、移動式発射台からの発射場面の写真を掲載したものの、金正恩の写真は無かった。珍しいことである。2日前に届いた『画報朝鮮』10月号には、ミサイル発射試験場での金正恩の写真を大々的に載せており、テーブルの上にはいつもの灰皿が置かれているだけでなく、金正恩のものと思われる携帯電話も写っている。
今年の5月以降12回目で計20発目となる発射実験の視察を見送った金正恩の真意は「米国など国際社会を過度に刺激するのを避けたため」と言われているが、日本政府は幸いにも日本のEEZ(排他的経済水域)内に落下はしなかったものの、例によって「厳重に抗議する」とのコメントを出した。金正恩にすれば、日本の抗議など「意に介さない」とでも思っているだろう。
日本は今、「北朝鮮からの空と海の脅威に晒されている」。北朝鮮からのもう1つのありがたくない“贈り物”である、北朝鮮の小型木造漁船の日本海岸への漂着が始まったが、この事態に備えて青森海上保安部(青森市)は11月4日に「青森機動監視隊」を発足させた。季節風や潮流の影響で漂着が増える冬季限定で日本海沿岸の陸上をパトロールするもので、監視隊は鰺ヶ沢町役場(弘前に隣接し日本海に面する町)を拠点に韓国語ができる数人が常駐し、沿岸を警戒するという。
「韓国語ができる数人」とは頼もしい限りである。日本で韓国語ならぬ朝鮮語ができる(まねることでも構わないが)人は、ラヂオプレスなど北朝鮮の放送を傍受し翻訳・分析している一部の関係者ぐらいなものだろう。しかも、北朝鮮訛りの朝鮮語を話せる人は朝鮮総連系の在日朝鮮人の中でも少ないであろう。
北朝鮮の小型木造漁船が漂着し、中に生存者がいると「何漁をしていたか?」と必ず尋問するが、時には「イカ漁」を「タコ漁」と通訳する事例が多い。韓国語と朝鮮語では「イカとタコ」の表現が違う。先月、日本海の生簀である大和堆付近で北朝鮮の漁船が水産庁の監視船に衝突して沈没したが、これは日本側からの撤去勧告を無視した結果であった。空からのミサイルの迎撃は不可能に近いが、海からの脅威である漂着船と漂流者の捜索なら十分に対応できる。
今年1月号の『画報朝鮮』にハタハタの大漁に相好(そうごう)崩す金正恩の姿が大々的に報じられていたが、ハタハタ漁は、例年11月から1月が最盛期とされる。ハタハタは「波多波多」という海が荒れたときに獲れる魚でもある。
北朝鮮の小型木造漁船の漂流、漂着が頻発する時期になった。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)
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