会社の業績不振で残業代やボーナスが未払いなのは「誰のせい」か

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残業代の未払いやボーナスの未支給は、会社員にとって見過ごせない大問題です。しかし、その一因でもある会社の業績不振は「誰のせい」になるのでしょうか? 今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、残業代が未払いだった会社の役員個人を訴えた裁判事例を挙げ、その結末を紹介しています。

会社が残業代を未払い。役員「個人」は責任を問われるのか

以前にあるテレビ番組を観ていてちょっと気になるセリフがありました。

某大物芸人 「自分のせいでも無いのにボーナス出ないなんてことになったらみなさんも納得いかないでしょう!」

(※ このセリフだけではみなさんは面白くもなんともないと思いますが、この会話の内容について説明を始めてしまうと完全に話がそれてしまうので今回は割愛します。すいません)

ここで私が気になったのはどこかと言うと、「自分のせいでも無いのに」の部分です。

会社の業績が悪くてボーナスが支給されなかったらはたしてそれは誰のせいか?「会社の業績は社員全員が責任を負うべき!」という意見ももちろんありだとは思いますが、現実的には社長や取締役などの役員のせいだと考える社員が多いのではないでしょうか。

では法律的にはどうか。会社の業績が悪いことの原因に役員の悪意や重大な過失があれば法律上も問題にはなりますがそうではない場合は問題になることはほぼ無いでしょう(もちろん、役員解任、降格、報酬の返上などはありえると思いますが)。

では、会社が不正を行った場合はどうか? 役員個人は法律的にどこまで罪に問われるのでしょうか? それについて裁判があります。

あるホテル運営会社で社員に残業代が支払われていませんでした。そこで、その社員が会社の役員個人を訴えたのです。

この裁判は通常の残業代裁判とは少し違うところがありました。実は、社員はすでに残業代未払いで会社を訴えており、さらに「残業代を支払うように」との判決も出ていました。にも関わらず会社は残業代を1円も支払っていなかったのです。

ではこの場合に「役員個人」は罪に問われるのか。

裁判の結果、「役員に責任ありとして、損害賠償請求を認めました。具体的には以下の通りです。

  • 会社が社員に残業代を支払うことは法的な義務であり、役員は会社に対して残業代を支払わせる義務を負っている
  • 役員に就任している以上、会社に対して残業代を支払わせる機会はあった
  • 役員は(裁判起こした社員から)残業代の請求があったことを知りながら何らの対応も取らず、放置した

いかがでしょうか。役員にどの範囲まで法律的な責任をとってもらうかについてはその判断が難しい場合もあります。例えば万が一、損失が出た場合のその経営判断にまで責任をとってもらうというのであれば、思い切った経営判断がしづらくなるという弊害もでてきます。

ただ、役員には法律にそって、正しく会社を経営する義務があります(ちょっと難しい言い方になりますがこれを「善管注意義務」「忠実義務」と言います)。よって裁判所はこのように判断をしたのです。

みなさんの中にはすでに役員をやられている人もいらっしゃるでしょう。役員は多忙です。大変です。「そんなことまで関わっていられないよ」ということもたくさんあるかも知れません。

ただ、役員である以上、法律違反には(当然ながら)厳しい判断がされてしまうのです。

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【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

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【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

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