原発を止めた裁判官が語る、運転停止を判断した恐ろしすぎる理由

 

もう一つの「奇跡」は2号機で起きた。2号機はメルトダウンし、格納容器の中が水蒸気でいっぱいになり、圧力が大爆発寸前まで高まった。圧力を抜くためにベントという装置があるが、電源喪失で動かせない。放射能が高すぎて、人も近寄れない。

当時の福島第一原発所長、吉田昌郎氏は、格納容器内の圧力が設計基準の2倍をこえた3月15日の時点で、大爆発を覚悟した。のちに「東日本壊滅が脳裏に浮かんだ」と証言している。

ところが不思議なことに、そういう事態にはならなかった。水蒸気がどこからか抜けていたのだ。

「多分、格納容器の下のほうに弱いところがあったんでしょう。格納容器は本当に丈夫でなければいけない。だけど弱いところがあった。要するに欠陥機だったために、奇跡が起きたんです」

福島第一原発事故の放射能汚染による帰還困難地域は、名古屋市域とほぼ同じ広さの337平方キロメートルにおよぶ。それだけでも、未曾有の人災である。しかし、二つの奇跡がなかったら、被害は国の存亡にかかわるほど甚大だったはずだ。

たまさかの工事の遅れと設備のズレで4号機プールに水が流れ込んだ。2号機の原子炉の欠陥部分から蒸気がもれ、圧力が逃げた。本来ならマイナスである二つの偶然が、奇跡的にプラスに働いた。あのとき、日本の命運は、かくも頼りないものに寄りかかっていたのである。

樋口氏が言いたいのは、原発がいかに危険であるか、もっと知ってほしいということだ。めったに起こらないことが起こっただけと高をくくってはいけない。原発がある限り、日本が崩壊する危険性と隣り合わせであることを自覚してほしいということだ。

「二つの奇跡」の話、知っている国民がどれだけいるだろうか。そして、原発の耐震設計基準は、大手住宅メーカーの耐震基準よりはるかに低いことを知っているだろうか。

福島第一原発事故では800ガルの揺れが外部電力の喪失を引き起こした。800ガルといえば先述したように震度6強クラスだ。その程度の地震は日本列島のどこで、いつなんどき起こるかしれない。

2000年以降、震度6強以上を記録した地震をあげてみよう。

  • 鳥取県西部:6強
  • 宮城県北部:6強
  • 能登半島沖:6強
  • 新潟県上中越沖:6強
  • 岩手県内陸南部:6強
  • 東北地方太平洋沖:7
  • 長野県・新潟県県境付近:6強
  • 静岡県東部:6強
  • 宮城県沖:6強
  • 熊本:7
  • 北海道胆振東部:7
  • 山形県沖:6強

これだけある。

ガルで表せば、もっとわかりやすい。大阪府北部地震は806ガル、熊本地震は1,740ガル、北海道胆振東部地震は1,796ガルを観測している。

三井ホームの耐震設計基準は5,000ガル。すなわち5,000ガルの揺れに耐えるよう設計されることになっている。住友林業の耐震設計基準は3,406ガルだという。

それに対して、原発の耐震設計基準はどうか。大飯原発は当初、405ガルだった。なぜか原発訴訟の判決直前になって、何も変わっていないにもかかわらず、700ガルに上がった。コンピューターシミュレーションで、そういう数値が出たと関電は主張した。

たとえ700ガルまで耐えられるとしても、安心できる設計ではないのは、これまで述べてきたことで明らかであろう。

樋口氏はため息まじりに言った。

原発は被害がでかいうえ、発生確率がものすごく高い。ふつうの地震でも原発の近くで起これば設計基準をこえてしまう。電力会社は400とか700ガルの耐震設計基準で良しとして、大飯原発の敷地に限っては700ガル以上の地震は来ませんと、強振動予測の地震学者を連れてきて言わせる。信用できないでしょ。“死に至る病を日本はかかえているんです」

首相官邸の影響下にある最高裁事務総局の意向を気にする“ヒラメ裁判官”がはびこるなか、政府の原発再稼働政策に逆らう判決を繰り返した気骨の裁判官は、原発の危険性について、ここまで掘り下げ、分析したうえで、結論を出していたのだ。

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