安倍官邸が性暴力裁判の山口氏をアメリカへと逃した卑怯な手口

 

判決後の記者会見で、記者から「就活生である伊藤詩織さんと、山口さんの主張されるように合意があったとしても、性行為をするということは適切だと思いますか」と聞かれ、山口氏は「適切ではなかったと思ってますこれでいいですか…道義的な部分をここで掘り下げられてもお答えしません」と吐き捨てるように言った。

犯罪かどうかが問題なのであって、道義的なことはこのさい関係がないというのである。だが、そうだろうか。紳士としての心得があるかどうか。こういう問題を考えるとき、それは重要な要素ではないか。山口氏に決定的に欠けているのは、そこである。

筆者は、判決当日の記者会見と、翌日の日本外国特派員協会プレスコンファランスにおける山口氏サイドの発言内容に驚愕した。山口氏サイドは伊藤さんを「ウソつきの常習犯」と強調する作戦だと見受けられたが、その攻撃ぶりは、あまりにも過激、残酷、かつ滑稽なものだった。

まず、18日の記者会見。山口氏と、山口氏を支援する男女二人が並んで席に着いた。山口氏が「控訴する。私は法に触れる行為を一切していない」と宣言し、この事件を取材してきたという文芸評論家、小川榮太郎氏が司法の退廃だ」と毒づいた。驚いたのは、そのあとである。

小川氏の資料集めなどのアシスタントをしているらしい女性がこう発言したのだ。

「性被害にあった女性の方々に話を聞いたのですが、記者会見や海外メディアのインタビューでしゃべる伊藤さんの姿に強い違和感をおぼえたということでした。人前であんなに堂々と、ときに笑顔も交えながらご自身の体験について語るということが信じられないということでした」

あたかも、被害女性のすべてがそう思っているかのような言い方である。

山口氏は「みなさんはプロの記者でいらっしゃるのであれば、客観的な事実を示してください」と、上から目線で注文を付けた後、こう言い放った。

「(伊藤さんには)虚言癖がある…性犯罪被害者に会うと、本当の被害者は笑ったりしないと証言してくださった」

同席の女性の言葉をなぞり、「虚言癖」と断定して、原因を伊藤さんに押しつけた。

ブログで伊藤さんを激烈に批判してきた山口氏の代理人弁護士、北口雅章氏も、噂にたがわぬ威圧感の持ち主だった。以下は、翌日の特派員協会会見における発言の一部。

「伊藤詩織さんが『ブラックボックス』」で書いていることは病院のカルテと矛盾している。事件直後に受診した精神科のカルテに当日の記憶は全く残っていないと記載されている。記憶していない出来事をどうして生々しく具体的に描くことができましょうか。人間は忘れたことを思い出すことはできません

あまりにも長広舌だったので、このくだりに関してだけ言及するが、筆者には支離滅裂な言い分に思える。伊藤さんは午前5時ごろに下腹部の痛みで目を覚まし、それまでの記憶がないと言っているにすぎない。覚醒後のことは記憶しているから生々しく描ける。それだけのことだ。

どうでもいいが、「人間は忘れたことを思い出すことはできません」とは、いかなる意味だろうか。何かの教義なのか、それとも北口弁護士の新説か。少なくとも、忘れたことを思い出すことができなければ、北口弁護士の仕事にも差支えが出てこよう。

山口氏も認めているように、彼が伊藤さんにしたことは間違いなく「道義的に不適切」といえる。伊藤さんは刑事罰を求めて警察に駆け込んだ。そして、逮捕状が出たにもかかわらず、中村格刑事部長が執行とりやめの命令を下した。

伊藤さんにしてみれば、民事裁判で勝訴したとはいえ、その異例な出来事の背後で何か大きな力が働いたという疑念が消えることはないだろう。

伊藤さんは自らが巻き込まれた事件についての取材を続けている。山口氏の外国特派員協会での会見にも取材記者として出席し、自分に対して「嘘つき」と罵倒する発言にも耐えた。

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