「日本の司法は闇深」世界がゴーン氏逃亡に共感する裏事情

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年末から各メディアで報じられている「カルロス・ゴーン逃亡劇」は、逃亡したゴーン氏を非難するトーンが含まれているものの、海外メディアに目を向けると少し違った論説が展開されているようです。メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的エンジニアの中島聡さんは自身のメルマガの中で、海外記事を解説しつつ、日本の司法システムが持つある「闇」について指摘しています。

ゴーン氏の逃亡と日本の人質司法

日本のメディアを騒がせているゴーン氏の逃亡ですが、海外では、比較的ゴーン氏側についた記事が目立ちます。

BBC(英国)の「Carlos Ghosn and Japan’s ‘hostage justice’ system」は、日本の「人質司法(hostage justice)」と呼ばれる手法を、アーティストのろくでなし子(記事中では、本名の五十嵐めぐみ)が女性器をかたどったアートを作っただけで逮捕・勾留された事件を例に紹介しています。

人質司法とは、「自白すればすぐに保釈し、否認すると長期間勾留する」と脅すことにより、無理やり自白を促そうとする手法です。弁護士の同席も許されず、毎日12時間もの尋問が繰り返されるため、そこから逃れるためだけに無実の人が自白してしまうことが多いし、逆に自白をしない場合、長期勾留と尋問そのものが(裁判という手続きを経ない)懲罰になっているのです。

この非人道的な日本の司法システムを丁寧に説明した上で、検察がゴーン氏を長期勾留し、裁判所から保釈の許可が出てからも何度も再逮捕し続けた経緯を丁寧に説明した上で、ゴーン氏はその「人権を無視した日本の人質司法」から逃げた、と説明しているのです。

The Times (英国)の「Carlos Ghosn was right to flee Japan, says British boss Michael Woodford」は、オリンパスの元CEO、Michael Woodford 氏の「ゴーン氏がなぜこんなことをしたのか理解できる。公正な裁判が受けられたとは思えなかったからだ」というコメントを掲載しています。Michael Woodford 氏は、COO に就任した際にそれまでの経営陣が行なってきた不正会計を徹底調査した上で、自らがCEOになり是正をしようとしたところ、取締役会で解任されてしまった経験を持つイギリス人です(参照:オリンパス事件)。

The Gardian の「Carlos Ghosn’s escape puts spotlight on the former aide left behind」は、残された(ゴーン氏の片腕だった)Greg Kelly 氏にスポットライトを当てた記事ですが、やはり人質司法を紹介した上で、検察に逮捕されたら99.8% の人が有罪判決を受けてしまう、日本の司法の問題を指摘しています。

これ以外にも、Wall Street Journal の「The Carlos Ghosn Experience」、The Economist(英国)の「No one comes out of the Carlos Ghosn affair smelling of roses」などもほぼ同じ論調で、日本の司法システムの問題を指摘しています。

Le Figaro (フランス)は「Was Carlos Ghosn right to run away from Japan? 」というページでアンケートを募集していますが、8割近くの人たち(主にフランス人)が「ゴーン氏の日本からの逃亡は正しい行動だった」と答えています。

ちなみに、東洋経済オンラインはLe Figaro の東京特派員が書いた「逃亡後のゴーンが明かした日本への「復讐計画」」という記事で、ゴーン氏が(自分の経験を通して、日産や日本の司法システムの問題点を明らかにする)書籍だけでなく映画の制作も考えていることを紹介しています。

Daily Beast の「Carlos Ghosn’s ‘Great Escape’ Writes a Hollywood Ending to Japanese Imprisonment」によると、映画化の話はゴーン氏の日本脱出前から始まっており、ゴーン氏は逃亡の1週間前に、知り合いに対して「その映画は驚きの結末を迎える」と話していたそうです。

この記事にはゴーン氏が書いた映画のシナリオが紹介されていますが、簡単にまとめると、

  • 日産がルノーの配下に置かれてしまうことを恐れた日本の経営陣と経産省が、ゴーン氏の追放を計画。
  • ゴーン氏を追放出来るネタはないかと内部調査を開始。
  • 安倍首相の顧問弁護士でもある、元特捜の熊田昭英氏に相談。
  • 日本の経営陣は、「自分達だけは罪を免れる」という司法取引を取り付けた上で、証拠を東京地検に提出。

となります。

ちなみに、東京地検が最初にゴーン氏を逮捕した理由は「役員報酬の隠匿」(有価証券報告書への虚偽記載)でしたが、ここで隠蔽されたとされる役員報酬は「退任後の支払の約束」でしかなく、そもそもそんなものに開示義務があるかどうかすら疑わしいものでした(参照:ゴーン氏事件についての“衝撃の事実”~“隠蔽役員報酬”は支払われていなかった)。

さらに、別途問題になった役員報酬が実際よりも少なく記載されていた問題に関しては、日本人の経営者も含めて全員が恩恵を得ていたものです(参照:日産・ケリー前代表取締役が明かした「西川廣人社長の正体」)。これに関しては、日産だけでなく取締役会が経営メンバーで構成されているために、コーポレートガバナンスが働いていない日本の企業の多くが、程度の差はあれ日常的に長年行なっていることです。

重役だけが自由に使えるゴルフ会員権や別荘、豪華な社宅、お抱え運転手、使い放題の接待費、子会社への天下り、天下り先でもらう法外な退職金など、日本で慣習として普通に行われている「役員メリット」を米国の会社法・税法の元で裁けば、日本の大企業の役員のほとんどが、有価証券報告書への虚偽記載・脱税・背任行為で有罪判決を受けることになります。

今回のゴーン氏の逃亡事件は、日本の人質司法も含めた、日本の様々な「闇」に関して、考える良い機会を与えてくれたと思います。

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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