Amazonやテスラに大敗。業界大手が新規参入者に負け続ける理由

 

同様なことが、2000年代の後半に携帯電話業界に起こりました。iPhoneが誕生した時、既存の携帯電話メーカーの人たちは、ボタンがない電話機など使い物にならない、あんなものは作ろうと思えばいつでも作れると否定的でしたが、結局、軒並み淘汰されてしまいました。

2020年の現在、全く同様なことが自動車業界で起こりつつあります。自動車業界では、何年も前から、これからはCASEの時代だと騒いでいます。

  • C:Connectivity(ネットへの接続)
  • A:Autonomous(自動運転)
  • S:Shared Economy(所有せずに、必要に応じて使う時代)
  • E:Electric(電気自動車)

にも関わらず、既存メーカーの動きは非常に遅いのです。

GMは、EV1という時代を先取りした電気自動車を1996年に発売しましたが、これはあくまでカリフォルニア州の厳しい規制(ZEV:Zero Emission Vehicle)に対処するものではなく、ロビー活動によりその規制を封じ込めると、さっさと市場から撤退してしまいました(2003年)。

日産は、(話題のゴーン氏の肝いりで)リーフという電気自動車をいち早く発売し(2010年)、一時は、世界で最も売れている電気自動車でした(すでに40万台を出荷しました)。しかし、なかなか利益を生み出さないという理由からその後の積極的な投資が出来ず、今や市場での存在感を失くしつつあります

トヨタ自動車も、一時はTeslaに出資し、電気自動車を発表しましたが(2010年のRAV4 EV)、全く本気でやる気はなく、すぐにTeslaとの提携も解消してしまいました。Toyotaは最近になって、ようやく電気自動車に本気になり始めたように見えますが、未だに「電動化(ハイブリッドを含む)」などという中途半端な言葉を使っている状況で、フルコミットは出来ていません

そんな中で、結局、世界の電気自動車業界をリードする立場になったのは、新規参入のTeslaでした。「なぜ電気自動車なのか」「なぜ自動運転が重要なのか」という本質を理解している創業者がCEOをしているため、物作りの姿勢が根本的に違うのです。

私自身もTeslaを所有してようやく理解できましたが、Teslaは「電気で動く自動車」ではなく、「駆動能力を持ったコンピュータ」なのです。これは、ガラケーが「ブラウザ機能を搭載した携帯電話」だったのに対して、iPhoneが「携帯電話の機能を持ったコンピュータ」であったのと同じで、設計思想から違うのです。

私は、長年、自動車メーカーの人たちと仕事をしてきましたが、この「Teslaは設計思想から根本的に違う」という部分がどうしても通じないのでとても苦労しました。結果として、未だに、縦割りの組織でものを作っているし、ソフトウェアの開発は仕様書だけ書いて下請けに丸投げしています。

既存の自動車会社がTeslaと肩を並べるには、

  • 別会社を作って、外から連れてきたソフトウェアが分かる人間をトップに置く
  • 潤沢な開発資金とリソースだけ提供し、口は出さずに自由にものを作らせる
  • その会社のライバルはTeslaではなく、ガソリン車・ディーゼル車であることを明確にする
  • 既存のディーラーネットワークを使わずに、直販させる
  • 自動運転車を使ったカー・シェアリング・ビジネスも本気で作らせる
  • 親会社からの天下りは一切しない

ぐらいの荒療治が必要だと思います。

image by: Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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