新型コロナウイルスによる死者の数が中国を大きく上回り6000人を超えたイタリアは、医療崩壊に陥っていると言えそうです。日本は幸いそのような事態にはなっていませんが、感染爆発がいつ起きてもおかしくないとの警告もあり予断は許されません。危機管理の専門家で軍事アナリストの小川和久さんは、自身が主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、韓国が採用した例や米国のテロ対策の例を紹介し、いま一度トリアージと隔離についての考え方の徹底が必要だと訴えます。
コロナにはクールなトリアージ
米国では、急激に感染者が増えたカリフォルニア州で、海岸にハウストレーラーを並べた隔離対策が実施され、各1000床のベッド数を誇る米海軍の病院船コンフォート(69000トン、東海岸)とマーシー(同、西海岸)もコロナ対策に投入されています。
どれも、米国ならではの取り組みで、クルーズ船ダイヤモンドプリンセスの船内感染対策で日本を批判し、あざ笑っていた米国の慌てぶりも見て取ることができる光景です。しかし、だからといって日本にとっても対岸の火事ではありません。
まず、日本ではハウストレーラーが普及していないので、100台単位で並べていくことなど考えられません。病院船も、いくら推進するための議員連盟ができても、必要性が叫ばれた阪神・淡路大震災から25年経って1隻も保有していない日本です。実現はいつになるかわかったものではありません。
そんな現状に対して、現在進行形でコロナ対策を推進しながら、次なる感染症のパンデミック(世界的な大流行)に短期間で備えを固めるためには、小型から大型までの病院天幕を自治体単位で保有すべきだと述べてきました。
野球場のドームを実現している日本です。堅牢で必要な機能を備えた病院天幕を備えることは難しくありませんし、施設を建設することに比べて、用地取得などの経費もかかりません。
病院船のほうも、中国が保有しているような中古の貨物船に医療モジュールコンテナと高度医療設備を積んだ病院船(基本モデルで200床)を、できれば10隻ほど保有し、日頃は7隻くらいをアフリカ沿岸などで無料の医療活動に従事させ、1隻は日本沿岸を巡航しながら突発的な大規模災害に備え、同時に世界から集めてきた医療スタッフ、病院船運用スタッフの育成施設としても活用するという構想のほうが、新しく1隻600億円も掛けて建造するより現実的だと思っています。
ただ、現在の話に戻りますと、そこから学び、これからの対策に役立てるべきは感染症の症状によるトリアージと隔離についての考え方だと思います。
韓国は、自分でやってこられるような軽症者や症状が出ていない感染者専用の施設を確保し、そこで対応できるよう取り組みを進めています。まだまだ分類指針が徹底されていないようですが、そうしておけば、本格的な入院と治療が必要な重症者を設備の整った病院に収容し、必要な治療ができるようになります。
私と西恭之さん(静岡県立大学特任助教)が編集・翻訳した『アメリカ式銃撃テロ対策ハンドブック』(2019年3月、近代消防社)にも、同じ考え方が繰り返し強調されています。
事件現場から最初に設備の整った病院にやってくるのは、自分の足で駆け付けてくることができる人か軽傷者に限られています。この人たちでいっぱいになった病院に、あとから重症者が救急車で搬送されてきても収容も対応もできないことは明らかです。だから、自分の足でやってきた人、軽傷の人は「ほかの病院に行くよう、追い返せ」と厳格なルールが示されているのです。
それが明確になっていなかった結果、選別なしに感染者を受け入れてしまったイタリアの医療崩壊の惨状は、私たちに感染症やテロ、大災害時の情に流されないクールなトリアージについて問いかけています。(小川和久)
image by: Grabowski Foto / shutterstock