東京も時間の問題。「ロックダウン」された米シアトルの現状

 

ロックダウンの実際

都市封鎖/ロックダウンといっても、アメリカの諸都市では現在イタリアで実施されているような、市民の通行を完全に禁止する戒厳令的な措置にはなっていない。

呼び方もソフトだ。米国でいちばん最初にロックダウンを実施したサンフランシスコでは「shelter in place」という名称を使っていた。日本語では「屋内退避」とでもいうべきか。建物内にいないと危険、という印象を与える言葉だ。ミサイルかなにかが降ってくる気がする。

ニューヨークのクオモ州知事はこの名称に強く反対して、より柔らかな「PAUSE」(一時停止)という名称で知事令を出した。言葉が市民の心象にあたえる影響は大きい、という判断だ。「言葉は大切だ」とクオモ知事。うんうん、よくわかっていらっしゃる。

カリフォルニア州もこれにならい、「stay-at-home」(自宅待機、と訳されていることが多い。要は「家にいてね」ということ)と名称を変更。さらに数日遅れて知事令をだしたワシントン州では「Stay Home, Stay Healthy」(家にいよう、健康でいよう)という、さらに柔らかな、室内健康器具のCMコピーみたいな名称を使っている。

呼び方は違っても、どの州や都市も中身はほとんど同じ。

一番大きいのは「nonessential(必要不可欠ではない)」事業所の閉鎖が命じられていることだろう。

ワシントン州で現在の何が「essential」で何がそうでないのか、というのは長いリストがある。

Essential business | Washington State Coronavirus Response

病院や公衆衛生、公共設備のメンテナンス、食品流通、食品製造、農業、エネルギーや水道などのインフラ関連、病院関連の用品製造、交通、電信、金融などが、市民生活を守る上で必要不可欠な事業とされている。

面白いのは、酒屋は店内で食料品を一緒に扱っていない限り「必要不可欠」とは認められないけれど、マリファナの小売店で働く人は必要不可欠な働き手としてリストされていること。

すでにロックダウン開始前、集会が禁止されてみんなが外出を自粛しはじめてから、マリファナ店の売上はぐーんと伸び、関連会社の株価も上がっているという。

自宅にこもっているなら、ハッピーになりたいのは当然のこと。アルコールで酔っ払ってクダを巻き凶暴化する人はいても、マリファナで凶暴化する人はまずいないので、家の中にこもった人民をハッピーにしておくには大麻店を稼働させるのは良い政策なのである。州にとって大麻は大切な税収源だし。カリフォルニアも同様らしい。

必要不可欠でない事業を行う事業所の閉鎖については、一目瞭然なので強制力があるが「とにかく集まらないように」という部分は、いまのところ市民の良識にゆだねられている。

「essential(必要不可欠)」と認められている仕事への通勤、病院や薬局への往復、食料品の買い出し、そして「ソーシャルディスタンス」を守る限り、屋外で散歩やサイクリングをするのは認められている。

自宅から何マイル以上離れて移動してはいけないという決まりは、いまのところ出ていないので、ちょっと離れた公園や森にクルマで行ってサイクリングをしてくるというのも禁じられてはいない。

でもニューヨークなどでは、特に若い人たちが気にせず集まってしまう例があとを絶たないので、もっと厳しい戒厳令式のロックダウンにするべきだ、という意見も出されている。この先感染が拡大し続ければ、許可証を持っていないと外出できないなんてことになるかもしれない。

シアトルでは近所を散歩していてすれ違うときも、お互いにずいぶん手前から道の反対側に移ったりして「ソーシャルディスタンス」を保つのが、あっという間に新しい日常になった。

スーパーでも「人を見たらコロナと思え」と、お互いに警戒しつつ、距離をあけて買い物をしている。近所に住む友人たちとも、今月はまだ一度も会っていない。

危機感は人によってさまざまで、2月の末から一歩も家の外に出ず、買い物もすべて宅配で済ませている人もいれば、ほとんど気にせず行動している人もいる。でも大多数の人は、イタリアの惨状と、マスクが足りない最前線で従事している医療スタッフからの、緊迫した切実なメッセージを深刻に受け止めて、感染防止に努めている。それほど大きな混乱はなく、いまのところは騒乱も大きな反発もなく、みんなわりあいにのんびりしている。

シアトルの象徴、スペースニードルの上には「WE GOT THIS SEATTLE」というスローガンを白抜きにしたブルーの旗が掲げられた。シアトルの市長が選んだスローガンだそうで、「大丈夫、やったるでー」「みんなで乗り切るぜ」というようなニュアンス。

ワシントン州のロックダウンは当初2週間の予定だったが、「延長の可能性もある」と州知事が匂わせている。まだまだ先は長い。いまはまだのんびりしているけれど、2週間後にみんなの疲労とストレスがたまってきたら、空気が変わってくるかもしれない。

先週1週間で、ワシントン州内で失業保険を申請した人は13万3,000人。その前週の約10倍だ。米国全体では1週間に290万人が失業保険を申請している。巨額の景気対策が可決されたが、一人最高1,200ドル程度の支給では絆創膏くらいにしかならない。

あまりにも異常な光景に急激に慣れてしまったいま、SNSなどで日本の人がまだふつうにレストランで食事をしているのを見ると、えっ?まだそんな日常生活があったの?と思ってしまうのが、3月末時点でのシアトルの生活感覚だ。

【TOMOZO】yuzuwords11@gmail.com

米国シアトル在住の英日翻訳者。在米そろそろ20年。マーケティングや広告、雑誌記事などの翻訳を主にやってます。

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image by: Rey Rodriguez / Shutterstock.com

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