日本のPCR検査数が増えない深刻な事情。原因は「政治の弱さ」か

 

(8)ギリギリで回している臨床検査技師集団への「ソンタク」の可能性。悪質ではないが、天下りによる本省との「濃厚な関係」。

これも誤解を招かないように言うのは難しいのですが、そうした中で「臨床検査技師集団」には、今回のコロナ危機により大きな負担がかかっているわけです。人員は足りない一方で、件数は増える、そしてミスは許されないということで、その現場への負荷は大きいわけです。更に言えば、ではOBが復帰すればいいとか、無資格でやっても違法ではないとはいえ、遺伝子検査というのは熟練を要する実務なので、簡単にOBが復帰できるとか、無資格の新人をトレーニングしてとは行かないのだと思います。

そうなると、とにかく官僚の発想としては現場の実務を変えない、前例と規則で必死になってこの専門家集団を守っていかなくてはならない、そうした行動様式になることは容易に想像ができます。そこで、これは想像になりますが、加藤大臣などは「俺が泥をかぶって組織を守ればいいんだ」などと思い詰めているのかもしれません。

一つ考えられるのは、それぞれの業界団体や、資格試験に関連した教育機関などが厚労官僚の「天下り先」になっていて、現場と本省が癒着しているという可能性です。十分にありそうですが、仮に天下りの構造があるにしても、そのために単価がものすごく高く設定されて、納税者や被保険者が食い物にされているということはないと思います。また、既得権益というにしては、現場の処遇は大変に地味です。

そうではあるのですが、全体として「臨床検査」ビジネスのトータルとしては、検査薬が5,000億、機器が1,000億、合わせて6,000億という規模であり、これに間接費込み700万かける7万人イコール5,000億という人件費が乗っかります。ということは、ザックリ言って1兆円プラスの「業界」であるわけです。これは医療産業トータルの中では立派な勢力です。

勝手や横暴はできないし、処遇改善を要求しても財源は限られるわけです。ですが、とにかく「自分たちなりの最低の要求は認めてほしい」という静かな力を持っている、そんな可能性は十分にあると思います。

その延長で、例えばですが「猛烈に検体数が増加するのは阻止してほしい」とか、反対に「あまりにも自動化の進んだ機器が入るのは、雇用と体制を動揺させるので慎重に」といった「意向」を持った場合に、厚労本省の方が「ソンタク」してしまうということはあると思います。悪どい利権ではなくても、「先輩が天下りしている団体」ということになると、そうした力学は十分に作用します。

(9)悲しいまでに保守的な官僚組織の構造。

仮にそうした力学が作用してしまうと、官僚組織というのは悲しいもので、「人命を救う」とか「国として内外からの信頼度を上げてゆく」といった最終的な目的はどこかへ吹っ飛んで、「無茶な改革は止めてくれ」「異常時を理由に雇用や組織の秩序を壊すのは止めてくれ」という極端な防衛行動に走ってしまう可能性があります。

そこを分かった上で、例えばシロウトであった菅直人という人は、タナボタ式で厚労大臣になった際には、スタンドプレー式に「薬害エイズ問題」で官僚組織と対決して、まるで自分が官僚組織をやっつけたかのように、それを自慢したのでした。厚労省には、もしかしたらその際の「被害者意識」や「その手の改革への警戒感」が残っているのかもしれません。

だとすると、改革を先回りして阻止するとか、一旦決めた方針を柔軟に変更するのは、徹底的に先回りして潰すといった、悲しいほどの本能が強化・濃縮されている可能性もあります。その結果として、誰も悪意を持っていないのに、組織全体としては硬直し切って、全く誤ったアウトプットが出てきてしまうということは、十分にあると思います。

であるのなら、今回という今回は、徹底してあらゆる段階の当事者の利害を透明化し、改めて「検体採取だけでなく、分析プロセスの自動化」による、全体の効率化を進めて、現場が疲弊したり将来不安に陥ることのないようにしながら、1日あたりのPCR処理能力を他国並みに持って行く、そうしたマネジメントが必要です。

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