日本は、新型コロナウイルス感染の第1波による爆発的な感染者の増加を許すことなく、緊急事態宣言の解除を迎えることになりました。しかし、数字を見れば、却って日本の医療体制の脆弱さが明らかになったと指摘するのは、メルマガ『8人ばなし』著者、山崎勝義さんです。山崎さんは、少ない感染者数に対する死亡率が高いことを問題視。10倍以上の感染者数を出しながら、日本よりも低い死亡率で抑えたドイツの人口当たりのICU病床数が世界2位であることから、以前「今からでも遅くない。東京オリンピック開催は諦めた方がいい理由」で明かしたドイツの4分の1、アメリカの5分の1しかない日本のICU病床数の問題を暗に示唆しています。
COVID-19と死亡率のこと
新型コロナウィルスに関する一連の報道を見ていると、まずもって欧米が最悪、それに比べると極東はだいぶまし、といった感じである。
確かに感染者数だけを見ると(以下、台湾以外の数字は全てWHO「Coronavirus Disease Dashboard」2020年5月25日13時51分時点[中央ヨーロッパ夏時間]による)、
日本
人口12686万人
感染者数16581人
韓国
人口5122万人
感染者数11206人
台湾
人口2360万人
感染者数441人
といったように、欧米各国と比べて桁違いに少ない。意外かもしれないが、対人口比で言うなら日本は韓国よりも優等なのである。
それにしても台湾の441人はその人口を勘定に入れても凄まじい数字である。その理由としては、台湾政府が前回SARSの教訓を活かし素早く初動態勢を取ったこと、現政権下において台中関係が急激に悪化したために台湾から中国、中国から台湾への人々の往来が以前ほどではなくなったことなどが挙げられる。後者は運の要素が強いが、欧米由来の第2波を防ぎ得た事実を考えれば、まず人知を以て成し遂げられたものと評価していい。
対人口比という注釈付きだが、感染者数が少なかった日本はどう評価できるだろうか。これは何と言っても国民がその身を厳に慎んだ結果である。加えてもともと日本人の間では既にある程度の衛生観念が醸成されていた。冬場の感染症対策として、マスクを着用するようになったのも、さまざまな施設の出入り口にアルコール消毒液が常備されるようになったのもコロナ以前である。
ただ日本を手放しで評価できないのは以下の数字があるからである。
感染者数16581人
死亡者数830人
死亡率5%
因みに他の東アジアの国の数字を挙げれば
韓国
感染者数11206人
死亡者数267人
死亡率2.4%
台湾
感染者数441人
死亡者数7人
死亡率1.6%
中国
感染者数84536人
死亡者数4645人
死亡率5.5%
である。
このうち中国に関して言えば、無症状感染者をカウントしていないから実際の死亡率はもっと低いかもしれない。日本は人口比で感染者数が少ないにもかかわらず死亡率がそこそこ高い。この事実は我が国の医療体制が脆弱であることを示している。
現に、人口10万人当たりのICU病床数世界第2位のドイツは
感染者数178570人
死亡者数8257人
死亡率4.6%
と、日本の10倍以上の感染者を出しながら死亡率は日本よりも低い。同じヨーロッパでもフランス19.9%、イタリア14.3%、イギリス14.2%、スペイン12.2%である。この死亡率の低さが如何に驚異的な数字かが分かる。
さらに、人口10万人当たりのICU病床数世界第1位のアメリカは
感染者数1592599人
死亡者数95863人
死亡率6%
と、日本の実に100倍近くの感染者数を出しながらも大いに善戦している。
こういった数値は日本に大きな課題を突き付けている。要は制度設計がお粗末なのである。これでは国民がいくら頑張ってもおよそ釣り合わない。
「備えあれば憂いなし」とは言うけれども、この国からあらゆる「憂い」をなくせとまで高くをそして多くを望んでいる訳ではない。納税者として「どうせ使う金なら少しはまともなことに使ってくれ」とただ言いたいだけのことなのである。
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