横田滋さんの死を機に拉致問題解決のため政府が本当にすべきこと

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北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの父で、拉致被害者の帰還、救出運動の先頭に立ち続けた横田滋さんが、6月5日に87歳で亡くなりました。軍事アナリストの小川和久さんは、主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、2008年にお会いした際の横田滋さんの様子を振り返り、その穏やかな人柄に思いを寄せます。そして一向に進展をみない拉致問題について、基本的な情報収集活動ができていない日本政府の姿勢を指摘し、根本的に改める必要があると訴えています。

拉致問題と御用聞き外交

横田滋さん(拉致被害者・横田めぐみさんの父)が亡くなりました。2008年、ある会合に中條高徳さん(アサヒビール名誉顧問)に連れられて参加し、少し立ち話をしただけですが、人柄の誠実さがとりわけ印象に残っています。私は、安全保障問題の専門家の一員として拉致問題解決に関わりを持っていることを手短にお話しし、なぜブルーリボンのバッジをつけていないのかについて説明しました。

拉致問題に心を砕いている方々の中にも、同じ思いがあるのだと思いますが、私はブルーリボンのバッジは拉致問題解決が政治利用されているシンボルのようで、とてもつける気にはなりません。しかも、日本政府には拉致問題解決の前提となる基本的な情報収集すらできていない実情を知る立場として、やっているふりを象徴しているようで、そうした免罪符のようなブルーリボンのバッジが嫌なのだとも申し上げました。

そのように説明すると、横田さんは頷きながら穏やかな表情で聞いていました。ことさら私の話に相づちを打つ訳でもなく、さりとて口を尖らせて反論する訳でもない横田さんの穏やかさには、突如として愛娘を奪い取られた理不尽さを正面から受け止めてきた、深い悲しみと諦めの気持ちが滲んでいるように感じられました。

別れしな、それでも私が横田さんたちを応援していることを伝えると、大きく頷いて、握手した手に力を込めて握り返してくれました。その時の横田さんの穏やかな表情を思い出すにつけ、拉致問題に対する日本政府の姿勢は根本から改めなければならないと痛感させられています。

まず、韓国にいる3万人以上とも言われる脱北者の一人一人に対して、徹底的に聞き取り調査を行うことが基本です。聞き取り調査は役人に任せず、新聞記者のOBなど取材(イコール情報収集)の実務経験者を「高給優遇」で3チームほど編成し、一人の脱北者に対して最低3回は粘り強く聞き取りを行うのです。新聞記者のOBらが執拗な聞き取りを行うことにより、脱北者がお金目当てで日本人が飛びつきそうな話をするのを、ふるいにかけてより分けることが可能になるでしょう。

そこまでやっても、有力な情報が得られることは期待できないでしょう。しかし、拉致被害者の生存についての「期待できる情報」、あるいはまったく否定的な情報の輪郭だけは把握できるはずです。それをもとに、次なる情報収集のステップを計画することも、あるいは北朝鮮側を動かしながらの調査活動も可能になると考えるべきです。

このような根気を要する取り組みは、日本人は得意ではないようですが、先進国の情報機関では常識なのです。韓国の情報機関・国家情報院の北朝鮮専門家も、「なぜ日本政府は最も基本的な情報収集活動をしないで、『なにか手がかりになるような情報はありませんか』と聞いてくるのでしょう」と首をかしげていました。

新聞記者の世界では、担当している役所の中を「なにか(ネタは)ありませんか」と聞いて回るだけの記者は「御用聞き」と軽蔑されます。日本政府の姿勢には、それとダブる印象がつきまとうのは否めません。横田滋さんの旅立ちを機に、いま一度、本気で拉致問題解決への取り組みを考え直すべきではないかと思っています。(小川和久)

image by: U.S. Department of StateState Department photo / Public domain

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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