【書評】そもそも長崎にいなかった?坂本龍馬と亀山社中の関係性

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数多く存在する幕末の志士の中でも抜群の人気を誇る人物といえば、坂本龍馬ではないでしょうか。しかし私たちが知る「龍馬像」は、司馬遼太郎氏により作り上げられたもの、というのも定説となっています。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが紹介しているのは、歴史学者が坂本龍馬の実像に迫った力作。暗殺の実行犯や指示を与えた人物についても触れられた、フィクションを排した一冊です。

偏屈BOOK案内:町田明広『新説 坂本龍馬』

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町田明広 著/集英社インターナショナル

若い頃は司馬遼太郎の本を手当たり次第読み漁り、最初の全集(全32巻)も発行順に一巻ずつ揃えた。通勤時の定番だったシバリョー。司馬史観という言葉を聞いたのは、遥か後年である。ただのエンタメで読んでいた小説が、いつのまにかノンフィクションのように受け取られ、司馬自身は小説家を超えた影響力をいまも発揮し続けている。司馬史観は歪曲、危険と思うようになった現在。

司馬の描くヒーローたちには事実誤認が散見され、作為も覗える。過剰な表現が駆使され、本当の人物像からかけ離れてしまった。

龍馬がその最たる例である。司馬以降に現在の龍馬像を形作ったものが皆無ではないが、圧倒的な影響力は『竜馬がゆく』であろう。こうして出来上がってしまった龍馬像は始末が悪く、(略)なかなか研究者が手を出しにくい存在になっていった。

フィクションから生まれた坂本龍馬「伝説」が、「史実」となって久しい。最近の出版界では、また龍馬ブームと呼ぶべき現象が起きているらしいが、相変わらず司馬史観寄りが多いようだ。著者は明治維新史が専門だが、主な対象は幕末政治史で、さらに絞り込んで薩摩藩を中心に研究をしている。その中で龍馬の存在はきわめて重要だとする。ここに「新しい龍馬像」が提示される。

龍馬は土佐藩を脱藩した浪人である。現代であれば国籍不明であり、普通は信用もなく活動もままならない。龍馬にとって脱藩の意義はなにか、それを周囲はどう捉えていたのか、いままでにない視点から迫る。龍馬は脱藩後、薩摩藩と行動を共にした後、土佐藩に復帰したというのが通説である。この間、龍馬はどんな帰属変遷を経ているのか、本当に「土佐藩士」として暗殺されたのか。

龍馬は「薩摩藩士」として、長州藩関連の情報を薩摩藩要路に伝える重要な役割を継続して果たしていて、長州藩にとっても薩摩藩を頼る状況下では、極めて貴重なパイプ役であった。薩長の連携は間違いなく龍馬を核に推進されていた。京都における小松帯刀と木戸孝允の歴史的会談は、龍馬が下地を作った。

この本で興味深かったのが、「盟友・近藤長次郎とユニオン号事件─亀山社中はなかった」である。亀山社中とは、小松帯刀配下の、龍馬以外の土佐脱藩浪士グループを中心とした一団を指す。蒸気船ユニオン号の購入・運搬にあたった。長州藩士に対し自分たちを「薩摩藩士としての一団」として「社中」と名乗ったに過ぎず、「亀山」とは明治以降に付け足された後世の創作である。

ましてや社中が、後の海援隊へと無媒介につながったとする連続性はナンセンス。また、彼らはこの段階では龍馬とは一切関係がない。そもそもこの時期、龍馬は長崎にはいないのだ。「饅頭屋長次郎」と通称された近藤長次郎については、司馬本では軽い扱いだったような気がする。現実には社中の代表格、この時点では龍馬と比較しても同格以上の存在であり、過小評価してはならない。

龍馬暗殺の実行犯は京都見廻組。それ以外を犯人と断定できる一次史料は皆無である。根拠は今井信郎・渡邊篤の証言。事件直後から実行犯は新選組とする説も流れたが推測レベル。京都見廻組に暗殺の指令を出したのは会津藩公用人・手代木直右衛門で、実弟・佐々木唯三郎に直接指示した。これが正解だろう。その根拠も書かれているが省略。龍馬愛あふれる本。

編集長 柴田忠男:シバチュー

image by: hayakato / Shutterstock.com

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