リモートワークや遠隔授業の拡大で、今やすっかり市民権を得たと言っても良いZoom。満員電車に長時間揺られて会社や学校へ行くことがなくなり、時間的なメリットはとても大きいといえるでしょう。一方で、良いことばかりではなく、デメリットがあるのも致し方ないもの。では、今後より広まるであろうリモート時代に何が必要となるのでしょうか。ビジネスに役立つ「テツガク」を語るメルマガ『中野明のストリートで哲学を語ってみた』の著者でノンフィクション作家の中野明さんが、実体験をもとに解説していきます。
「リモート時代」に不可欠なものは何か。遠隔授業のメリットは負荷の減少
いまやニュース番組とかでもお馴染みになりましたが、Zoomでは分割された画面に参加者の顔が映るというスタイルになっています。ただし、映像や音声はオン・オフができます。学生のほうは全員、映像・音声ともオフでして、画面には顔が映りません。
もちろん私も映像・音声ともオフにしていては何も始まりませんので、要するに私だけがオン状態で話をするという格好です。
画面には私の映像だけでなくPowerPointの画像を、参加者と共有できます。このパワポの画面を大写しにして授業を進めますから、学生はもっぱら私の顔を見ているだけ、というわけではありません。
このパワポのスライドを映しながら、話し続けるというのが、今回の同志社での遠隔授業でした。終了後はレポートの提出があり、講義に対するフィードバックは、それで得られるという感じです。
この遠隔授業を通じて思ったのは、当たり前のことかもしれませんが、やはりメリットがあると同時にデメリットもあるなぁ、ということです。両者について「負荷」という面から考えてみたいと思います。
まずはメリットからです。今回の授業で大いに感じたのは、講義に出講する負荷が大幅に減る、ということです。極端に減ると言ってもいいかもしれません。これが最大のメリットのように思いました。
従来、講義の当日は、授業の準備や大学までの行き帰りをいれると、1時間半の授業に、ほぼほぼ1日が必要になりました。ところが今回、この行き帰りがなくなったため、時間的ゆとりを得られるばかりか、「電車に乗り遅れてはならない」といった心理的負担からも解放されました。
また、私は外出する機会が極端に少ないため、いざ講義となると、授業の準備はもちろんのこと、着ていく服はどれにしようとか、何か忘れ物はないかとか、授業以外に余計なことをいろいろ考えなければなりません。このストレスからも解放されました。この負担減は本当に大きかったです。
遠隔授業のデメリットは新たな負荷の発生
ところが、従来の負荷が減少する一方で、新たな負荷が発生します。それはZoomという新たなツールの操作、それに通信環境です。特に負荷が大きい、言い換えると心配の種だったのが通信環境です。当方のマンションでは1ギガの光回線が入っており、それを住民でシェアします。普段は問題ないのですが、時間帯によってスピードが目を覆いたくなるほど遅くなります。
あまりに遅いので実際に計測してみると、何と1Mbpsも出ていないこともありました。Zoomを使うには、最低でも上り600kbps/下り1.2Mbpsが推奨されているようですが、これでは少々もの足りないように思えます。
先にZoomがニュース番組とかでもお馴染みになったと書きました。番組が出演者にリモートで取材して、その様子を番組で映すというものです。取材に登場する人によっては、明らかに回線速度が遅く、画面や音声が途切れがちになります。
こうした人の話って、あまり聞きたいと思わないのではないでしょうか。これは遠隔授業でも同様だと思います。極端に言うと、通信環境の良し悪しが、その人の話の良し悪しを決定するようなものです。幸い私の場合、13時10分からの授業ということで、回線に比較的余裕がある時間帯でした。これが夕方の時間帯だとしたら…。
その国の情報通信環境のレベルは、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークのうち、ボトルネックのレベルに準じます(3Wの法則。「ボキャブラリーの増強剤」参照)。このことは、企業や家庭、個人についても言えます。今後、さらなるネットワークの強化が、リモート時代には必須になるのではないでしょうか。
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