同じことは、トヨタのパートナー企業であるデンソーにも言えます。デンソーにとってソフトウェアの開発力を持つことは、(トヨタ自動車にとって、「なくてはならないパートナー」でい続けるためには)トヨタ自動車以上に重要です。デンソーが元Googleの及川卓也氏をコンサルタントとして雇ったのも、そこが理由だと思いますが、それでも苦労していると聞いています。
その意味では、トヨタ自動車がシリコンバレーに作ったTRI(Toyota Research Institute)は画期的な試みですが、私の見る限り「エンジニア集団」というよりは「研究者の集団」であり、彼らの作ったものを製品に活用するのは簡単ではないと思います。
TRIで働く人たちは、賢くて研究熱心ではありますが、ハングリー精神に欠けているように私には見えたのです。トヨタ自動車から出る潤沢な資金を使い、優雅に研究しているというイメージを受けました。そもそもハングリー精神のある人は一攫千金狙いでベンチャー企業に行くので、TRIで働く人たちにハングリー精神を求めること自体が間違いのように思えます。
ちなみに、この記事にも登場する友山副社長とは、何度もお会いしています。自動車業界に起こりつつある大変化に危機感を抱いているし、しっかりとしたビジョンも持っている方ですが、重要なものが一つ欠けていると感じました。
その何かとは、「このままではトヨタ自動車が倒産してしまう」「自分は明日にはクビになるかも知れない」という「本当の危機感」です。
表面的な危機感と「本当の危機感」の違いを説明するのは難しいのですが、「莫大な資産とキャッシュフローがあるトヨタ自動車はそう簡単には潰れない」のは事実だし、友山さんと豊田章男さんの距離(若い頃から一緒に働いて来たそうです)を考えればクビになる可能性はゼロなので、本当の危機感を持つのはとても難しいのです。
私は、Microsoft時代にビル・ゲイツと比較的近いところで働くという幸運に恵まれましたが、彼を他の経営者と大きく隔てているのが、この「本当の危機感」です。私がいた90年代は、Microsoftは飛ぶ鳥を落とす勢いで成長していましたが、ビル・ゲイツは常に危機感いっぱいで、会議の席では、すぐに真っ赤になって机を叩いて怒ったし、常に真剣でした。
Intelの創業者アンディ・グローブは、「Only the Paranoid Survive(偏執狂だけが生き残れる)」と言ったそうですが、まさにその典型です。スティーブ・ジョブズもそうだったし、ジェフ・ベゾスもイーロン・マスクも同じです。
もし、ビル・ゲイツが今頃トヨタ自動車の経営者だったら、いまだに電気自動車を出せていない連中を怒鳴り散らしているだろうし、「Teslaよりも魅力的な電気自動車を発売する」ことに、会社の全リソースを突っ込むぐらいの勢いで、積極的な投資をして来ただろうと思います。
それと比べると、日本の大会社の経営者たちは、所詮「サラリーマン経営者」で、「偏執狂」からは程遠いのです。
ちなみに、我が家は長年のトヨタファンで、私はプリウス、妻はレクサスを十数年間乗り継いで来ました。しかし、2017年に私がTeslaに乗り換え、妻も最近、とうとうAudiのe-Tronに乗り換えてしまいました。彼女曰く、「レクサスが電気自動車を出してくれていれば、迷うことなくそっちにしたのに…」。
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