南シナ海の緊張「尖閣」にも。日本に降りかかる米中対立の火の粉

 

それを阻んでいるのが、中国の南シナ海への進出と領海・領有権問題の存在です。南沙諸島海域で度重なるベトナムとの衝突、フィリピンとの軍事的な緊張、そして度重なる“領空侵犯”によって防空識別圏の設定を強行しようとする中国の姿は、まだASEAN内での中国警戒論の網を破るほどのサポートを形成していません。

そこに目をつけて一気に動き出したのがアメリカのトランプ政権です。2016年7月にICJ(国際司法裁判所)裁定で、南シナ海における中国の領有権は認めないとの内容が出てから、「問題は当事者間で国際法に則って解決すべき」と中立の立場を保ってきたアメリカが、この度一気に方針変化し、一線を超えた対中威嚇に乗り出しました。

7月14日から連日続くポンペオ国務長官の「南シナ海における中国による威嚇および暴挙を黙認することはできず、ベトナム、フィリピン、マレーシアが主張する立場を全面的に支持する」という発言は、米中対立における新たな戦端を南シナ海にも広げるというアメリカ政府の覚悟が見て取れます。

このポンペオ国務長官発言に呼応するように、米軍艦隊も中国海軍と同海域で軍事演習を強行し、アメリカの覚悟のレベルを誇示しはじめています。これまでは南シナ海海域では、アメリカの艦船と中国の艦船が平行に航行して圧力を掛け合っていましたが、今後は、ベトナムやフィリピンの保護のために、有事には一線を超えることも辞さないとの姿勢が窺えます。

このアメリカの積極介入が見据える先は、“同盟国”台湾の守備でしょう。香港が香港国家安全維持法の制定・施行によって中国化がすすめられ、一国一制度の下、香港民、そして自国の企業の行動の自由が奪われるとの認識をアメリカ・欧州各国は共有していますし、【今、香港で起こっていること、起ころうとしていることは、近いうちに台湾に対して中国が仕掛ける内容だろう】との認識から対中圧力を強めています。

しかし、アメリカとしては欧州の対中制裁への参加は期待できない状況であるため、香港自治法の制定によって対中金融制裁を課すカードをチラつかせ、貿易戦争、武力的な緊張、人権カードの使用などと共に、習近平国家主席に最大限の圧力をかけようとしています。南シナ海における中国への威嚇行為の強化もその一環でしょう。

一応、習近平国家主席は「南シナ海における中国の立場は“確信的利益”」と位置付け、表向きは重要視しているように見せていますが、アメリカとしては、習近平国家主席にとって念願のOne China実現のために不可欠な香港・台湾の重要性に比べたら南シナ海の重要性は低いとみて、今回の南シナ海における対中威嚇姿勢を選択したのだと考えます。

このまま偶発的な衝突に至らないことを切に祈りますが、北京の情報筋によると「何らかの交戦が行われた場合は、中国人民解放軍は覚悟を以て応戦する」とのことですし、ペンタゴンによると「(アメリカが勢力圏として実力確立している)太平洋地域において、これ以上中国が縦横無尽に勝手な動きをすることは看過しない」と述べて対決姿勢を鮮明化しています。

同じような状況が日本と中国(そして台湾)が争う尖閣諸島問題でも起こり得ますし、実際に米中ともにその可能性に言及していることから、日本にとっても関係のない話ではないことを、私たちは認識しておく必要があるでしょう。

これまでは香港という金融ハブを設置することで欧米とのチャンネルを開いてきた中国ですが、昨年の民主化デモの鎮圧失敗と民主派の拡大への危惧と、習近平国家主席が掲げるOne China/One Asia戦略の確実な実施のために(特に台湾の併合と中国への統一)、アメリカや欧州各国がコロナ禍で苦しみ、フルスロットルで中国叩きに来られない間に一気に足場固めをしに来ているといえます。

その点で「香港国家安全維持法の制定と施行」は欧米各国との決別・決裂を指すのではないかと考えます。

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