南シナ海の緊張「尖閣」にも。日本に降りかかる米中対立の火の粉

 

一つは、エルドアン大統領とその周辺がかつてのオスマントルコ帝国への憧れを抱いており、オスマントルコ帝国崩壊後、自らのsphere of influenceであったはずの地域を欧米諸国に好き放題にされたとの思いが、昨今、アメリカや欧州各国、そしてロシアから投げつけられるトルコ批判にうんざりしたという表れかと考えられます。

欧米とは長年にわたりNATOの同盟国として、対ソ包囲網の一翼を担い、アメリカの核ミサイルを配備するなど、思いきり“西寄り”の国として振舞い、新興国発展のモデルとまで持て囃されるまで力を取り戻してきましたが、オバマ政権時代のアメリカが行った米軍のリバランスにより、エルドアン大統領が希望した戦闘機とミサイルの購入をアメリカが無碍に断ったことと、そのリカバリーをトランプ大統領も迅速に行わなかったことで、アメリカに“失敗の代償”を見せつけるがごとくロシアに接近してS400の購入を行ったことで、アメリカから制裁対象になるというネガティブな影響を生みました。

しかし、それはエルドアン大統領の頭の中に「米ロ間の中東・北アフリカ地域での勢力拡大・維持のcasting voteを握る立場になれるのではないか」とのアイデアを授け、米ロ間の“争い”に割って入ることで地域の実権を取り戻そうとの動きに出ていると思われます。

同時にロシアともべったりするのではなく、シリアの体制については対立していますし、以前お話ししたリビアでの内戦でもロシアとは逆の勢力への支持を鮮明にすることで、策略家のプーチン大統領に呑まれてしまわないように、適度な緊張関係を保っています。

とはいえ、イラン支持では同調してアメリカを苛立たせていますし、中東のアメリカと言われるイスラエルや、“アメリカの一の同盟国”を自負しそれを権力基盤にしているサウジアラビアに対しても圧力をかけることで地域におけるデリケートなバランスを保っています。

首相時代から「アラブの父」とまで称され、その調整力を高く評価されてきたエルドアン大統領ですが、このところ先ほどお話ししたような賭けを多方面に対して打つようになってからは、若干微妙な評価になっているようです。そこに止めを刺したのではないかと思われるのが、今回のアヤソフィア問題です。

トルコ政府とエルドアン大統領としては、象徴的なアヤソフィアをイスラム化し、キリスト教的な要素を薄めることで周辺国からの支持を取り付け、代わりに欧米との決別を図ろうとしたと聞きますが、欧米との決裂は避けられない見込みですが、アラブ諸国もトルコを評価してはくれず、地域のバランサーで雄として君臨しようと目論んでいたプランは早くも崩れる恐れが高くなってきています(宗教絡みだと絶対にプーチン大統領も支持はしてくれませんし)。

全方向に敵を抱えた・圧力を抱えたエルドアン大統領のトルコがどのように存続を図ろうとするのか、非常に注視しています。

同じ欧米との決別でも、トルコとは違い、日米欧との緊張を高めながらも「最後のチャンス」とばかりに自らのsphere of influenceを高めているのが中国です。

東シナ海、南シナ海、黄海で軍事演習を同時に行い、アジア・太平洋地域での武力でのプレゼンス拡大を図っているのはこれまでにお話ししてきたとおりですが、COVID-19の感染に苦しむ東南アジア諸国(ASEAN)に対して経済的な支援を惜しみなくつぎ込む姿勢を示すことで影響力を高めようと必死です。

ASEAN各国からは「COVID-19感染拡大の元凶は中国」と非難を浴びつつも、「しかし、ASEANが危機的な状況に陥って苦しんでいる際に真っ先に助けの手を差し伸べたのは中国であり、アメリカでもヨーロッパでも、残念ながら日本でもない」と言わせ、中国勢力圏に取り込もうとしています。

まさにこれぞ一帯一路によるOne Asia政策の実施です。

アメリカや日本が自国内のコロナ対策に翻弄されている間に、ASEAN諸国との輸出入のボリュームを拡大し(2020年1月~6月の最大の貿易相手が中国)、次々と中国企業の生産・製造拠点をASEAN各国に集中移転して、中国経済の供給網のハブに取り込もうとしています。主に、マレーシア、ベトナム、シンガポールなどがその相手と言われています。カンボジアとラオスを取り込み、ミャンマーもすでに中国圏と言われる中、諸々の緊張は継続するものの「困ったときに駆け付けた中国」というパフォーマンスは中国と距離を置こうとしている各国(特にベトナムとフィリピン)の国内世論を動かそうとしています。

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