「記者魂」はどこに消えた?軍事アナリストが憂う新聞記者の学校秀才化

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日頃からメディアのあり方や記者の取材姿勢について、ジャーナリストの先輩として厳しい眼差しを向ける軍事アナリストの小川和久さん。昨今の安全保障問題に関する記事の質の低下を主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で嘆きます。小川さんは、かつて自身の著作に関して、鋭く詰め寄るように取材し、裏付けを重ねて記事にした朝日記者を例に、現役記者たちの奮起を促しています。

警察より厳しかった朝日記者の取材

もう10年以上になるでしょうか、新聞を開くたびにフラストレーションを感じない日はありません。安全保障問題について、生々しい現実に肉迫し、掘り下げた記事にお目にかかることがなくなったからです。

確かに、過去の公文書などを発掘するような優れた取り組みはあります。しかし、こんな文書が見つかりました、こんなショッキングなことが書かれています、で終わってしまっては、訓詁学でしかありません。訓詁学とは、本来は中国古典の文字や章句の意味を解釈する学問ですが、転じて、後ろ向きの学問や調査研究の姿勢を指して使われることもあります。一度だけの発掘では無理かもしれませんが、同様な作業を重ねる中で、歴史的な意味を「発見」しなければ、100点満点の60点ギリギリです。

そうした傾向は、新聞記者が学校秀才化する中で顕著になった印象があります。同じような学歴の官僚と仲良くなり、あるいは大学時代から付き合いがあり、それを活用して独自ネタを手に入れたり、公文書へのアクセスでも便宜を図ったりしてもらう。それもジャーナリストのひとつの能力ですから否定しませんが、それで終わっているところが残念でなりません。

そんな現状を見るにつけ、思い出されるのは朝日新聞の編集委員だった石川巌さんのことです。石川さんは『核さがしの旅』(朝日新聞社)など優れた調査報道で知られたジャーナリストですが、私の処女作『原潜回廊』(講談社)について石川さんの厳しい「査問」を受けたことがあります。

この本は、日本列島周辺で展開される米国とソ連のせめぎ合いを、潜水艦のオペレーションの角度から書いたものです。むろん、最も秘密の度合いの高い潜水艦の世界のこと、海上自衛隊の協力などありません。公開された情報を過去30年分にわたって渉猟し、そこに耳に挟んだ情報をジクソーパズルのように埋め込んでいって、分析を完成させたものです。

海上自衛隊のOBの中にも、「小川の本は1ページに何カ所も誤りがある」と非難する人がいましたが、のちに潜水艦隊司令官になる西村義明海幕広報室長はOBに対して言いました。「あなたの論文は米国の文献を縦書きにしただけで30人くらいしか読まないが、小川さんの本は何万人もの読者に日本列島周辺の状況を知らせてくれている。それも潜水艦を専門にしない立場でここまで書いたのだから、80点以上です」。私の同期生で海上自衛隊に転官して海将になったT君も「よく調べたなぁ。海上自衛隊でも、ここまで知っている人間はほんの少しだよ」と言ってくれました。以来、表だった非難はなくなりました。

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