石川さんは、この私の本の中身について4時間にわたって質問を重ねました。朝日新聞の総力を挙げても知ることのできない情報を、小川がどうして手に入れることができたのか、まさか想像で書いたのではないだろうな、といった、最初から疑ってかかる口調でした。私は『週刊現代』の記者時代、何回か名誉毀損で告訴され、警視庁の取り調べを受けた経験がありますが、それと比べても石川さんの「査問」は徹底しており、厳しいものでした。
4時間後、「査問」は終わり、それなりに納得してもらえたようで、ようやく解放されたのですが、2カ月後、私は朝日新聞を開いて苦笑いすることになります。なんと、石川さんは私にぶつけた質問をもとに裏付け取材を重ね、連載記事を書いたのです。
例えば、対馬海峡に漂泊していたソ連海軍の掃海艇の存在。ソ連の潜水艦が潜ったまま通過するとき、自分のエンジン音で日米に潜水艦の音紋を採取されないようにしていました。本に出てくるそんな情報について、石川さんは眉につばをつけるような様子で私に詰め寄りましたが、連載記事では朝日新聞の航空機を使って上空から掃海艇を撮影していました。
もちろん、小川に聞いたとはどこにも出てきませんが、私はニヤリとせずにはいられませんでした。石川さん、私の言ったことは本当だったでしょうという思いと同時に、ちゃんと検証した結果を紙面で報道した石川さんの姿勢に共感を覚えたからです。
さあ、新聞記者の皆さん。学校秀才のスーツを作業服に着替えて、あちこちを掘ってみてはどうでしょう。新聞協会賞をもらえるようなネタはあちこちに転がっているのですから。靴をすり減らして歩き回る刑事が少なくなった警察と、それとそっくりの新聞社と。どちらも能力が低下し、本来の使命を果たせなくなっている現状は、日本社会の危機といってよいと思います。頑張りましょう!(小川和久)
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