石破氏でも岸田氏でもない。各派閥が菅氏支持へと雪崩を打った訳

 

二階氏は親分肌であるだけ、理屈一辺倒は嫌う。一時は仲間づくりの下手な石破茂氏に加勢しようとしたが、いまは手を引いて、もっぱら、苦労人の菅義偉氏にご執心だ。

安倍批判を繰り返してきた石破氏は、安倍首相のみならず麻生副総理にも毛嫌いされている。温厚でどっちつかずのイメージが強い岸田氏の人気は今一つで、いざ総選挙となった場合に不安である。

だから、現政権の政策や方針をそのまま引き継げる菅官房長官が適任、というのが二階氏の売り文句だ。安倍首相も麻生副総理も当然わかっている。阿吽の呼吸か、それとも明確な意思の伝達があったのか、いずれにせよ菅氏へのバトンタッチで一致したのは間違いない。

だがそうはいっても、ふつうに総裁選をやったのでは思うようにはならない。総裁選は、国会議員と都道府県の党員による公選が原則だ。これだと国会議員票と党員票は同数である。

ちょっとわかりにくいので安倍、石破の一騎打ちとなった前回(2018年)の総裁選を例に挙げると、党員の投票数は64万1490票で、安倍氏はそのうち55.42%を獲得、石破氏は44.58%を集めた。

国会議員の投票総数は405票で、党員票もそれと同じ405票になるよう獲得比率で各候補に配分、その結果、党員票は安倍氏224、石破氏181と算定された。議員票は安倍氏が329票、石破氏が73票だ。いかに石破氏が国会議員に不人気で、地方に強いかがわかるだろう。

石破氏躍進の芽を摘むには、党員投票をしないに限る。そこで二階氏ら党執行部が頼りにするのが、党則6条2項のただし書きだ。

「総裁が任期中に欠けた場合で、特に緊急を要する時は、党大会に代わる両院議員総会においてその後任を選任する事が出来る」とある。これなら、有権者は国会議員と47都道府県連代表各3人だけ。一般党員は対象外だ。

自民党国会議員は394人で、都道府県連代表は141人だから、派閥力学で国会議員の票だけコントロールすれば、思い通りにしやすいわけである。

「総理になる気はさらさらない」と言い続けてきた菅官房長官が総裁選に出馬する意向を、二階幹事長らに伝え、応援を要請したのは安倍首相辞任表明の翌日のことだ。その時には、二階氏が何人かの派閥領袖と話をして早々と勝利の票読みができていた。

細田派98人、麻生派54人、二階派47人、菅グループといわれる無派閥議員30人ていど。それらを固めれば国会議員票の6割近くに及ぶ。昔ながらの派閥談合といっていい。

これなら最初から勝負がついているようなもので、たとえフルスペックで総裁選をやっても、菅氏以外の二人の惨憺たる結果は目に見えている。だが、いち早く党員投票はない方向を打ち出すことで、各派閥の動きを操作する思惑が二階幹事長にはあった。

安倍首相、麻生財務大臣の意向をくんで、石破氏を事実上排除するのが簡易版総裁選の一つの狙いだが、それを二階幹事長がぶち上げたため、勝ち馬に乗ろうとする各派閥が菅支持へと雪崩を打ったのだ。

これほどうまくコトが運べば、各派閥の考えの前提を崩さないために、二階幹事長は、いくら党員投票を求められても、やるわけにはいかなかったのであろう。「時間がない」「政治的空白は避けるべき」「コロナがあるので」など、思いつく限りの理由を周辺議員にでっち上げさせ、総務会で党員投票を求める若手議員らに反対論を唱えさせてガス抜きをしたうえで、あっさり党員投票抜きの総裁選日程を決めてしまった。

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