7年8か月もその椅子に座り続けた首相が去る。一つの時代が終わり、筆者とて感慨に浸りたい気分がないわけではない。
テレビ画面のなかでは、涙を流さんばかりに安倍氏の非運や功績を語ったり、記者たちはなぜ労いの言葉ひとつもかけられないのかと憤ったりする声であふれた。だが、ちょっと待ってほしい。政治を見るのに、「気分本位」は禁物なのだ。
政治主導という名の安倍官邸独裁がもたらしたものは、実際のところ何なのか、きっちり検証する必要がある。幹部人事を官邸に握られた官僚組織が知恵を封印してまで忖度に明け暮れた結果、たとえば新型コロナ対策においても、迅速に手を打てず、すべてが後手にまわったではないか。
国政選挙で連戦連勝を続け、万能感に酔った安倍首相は、集団的自衛権が行使できるよう憲法さえ恣意的に解釈変更し、通したい法案は、共謀罪であれ特定秘密保護法案であれ、強行採決して成立させてきた。これほどの憲法軽視と国会の形骸化は、安倍政権以前には見られなかったことだ。
総理のためなら公文書を改ざん、隠ぺいし、ウソの答弁も厭わない官僚たち。官邸や自民党の圧力に屈し、コメンテーターやキャスターの入れ替えまでしてしまうテレビ局。競うようにして安倍首相と飲食をともにしたがる大メディアの経営陣や編集幹部。そして、真実から目や耳を遮断されたままの一般市民。この国の民主主義を傷つけてきたのもまた、この7年8か月だった。
石破氏の強調する「共感と納得」は、安倍官邸の面々からすると、当てつけとしか受け取れないだろう。しかし、「共感と納得」の決定的に欠けた政治がこの間、行われてきたとことを一番知っているのも彼らである。その官邸の中心にいて、官邸官僚を通じて各省庁をコントロールしてきたのが菅官房長官だ。
大方の予想通り菅氏が総裁選に勝って総理大臣になるとしても、総裁任期は来年9月までの残り1年しかない。平時の総裁選は、党員投票を避けて通れないのだ。
それまでの、つなぎ役だとか、残務処理係などと菅氏自身は思っていないだろう。本格政権をめざしているだろう。ならば、党員投票もやって勝ちたいと、二階幹事長に申し入れ、粘り強く説得するべきだった。
二階氏に頭が上がらない首相が誕生しそうな雲行きである。
image by: 菅義偉 - Home | Facebook