世界中の経済に大打撃を与えた新型コロナウイルスですが、環境に掛かる負荷の減少には一役買っていたようです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では著者で健康社会学者の河合薫さんが、緊急事態宣言下の東京の気温が0.5度低かったという新聞記事を紹介するとともに、「新型コロナウィルス感染拡大が私たちに突きつけていること」を考察しています。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
ステイホームで“冷える都心”
今回は興味深い研究結果が朝日新聞に出ていたので紹介します。
なんとコロナ感染拡大で、「ヒートアイランド現象が解消された!」というのです。
調査を行なったのは東京都立大学の藤部特任教授らのグループです。
研究グループが1月~9月の東京都心の気温を調べたところ、緊急事態宣言が出された4月~5月の気温が、東京千代田区で約0.5度低かったことがわかりました。
都心の気温が低下した原因は、在宅勤務で会社の空調の利用率が抑えられたことに加え、交通量が減り、人工排熱が減ったことだといいます。
また、千代田区から75キロ離れた地域でも、0.1度~0.4度ほど下がっていたとか。都心にビルができると風向きが変わって、郊外の気温が上昇してしまったりする現象は以前から確認されていましたが、改めて「都心の影響力って…怖い!」というのが率直な感想です。
思い起こせば、私が学生の頃は都心から富士山が見える日数が激減し、1987年には1年間でたったの20日しかありませんでした(1970年以降で最小記録)。
しかし、環境問題が世界的マターとなった1990年中盤以降は富士山が見える日は急激に増加し、1999年には111日を記録。その後は増えたり減ったりを繰り返しながらも増加傾向が続きました。
そして、ついに2018年には120日を記録し、30年間で6倍も「富士山が見える日」は増加したのです。
もっとも、富士山が見える日が増えたのは、大気中の汚染物質減少に加え乾燥化も影響していると考えられています。
しかし、近代的な生活環境がいかに人工的な気候変動を及ぼしているかがよくわかりますよね。
実際、人手が減ったオフィス街では、通常の場合に比べ4割ほど電力消費が減少し、気温が0.13度下がるという結果も得られています(産業技術総合研究所調べ)。
一方、住宅街では人口が増えても電力消費量は微増で、気温への影響もほとんどないとされています。