自民こそ既得権益集団だ。学術会議バッシングに勤しむ政治屋の面々

 

さて、ざっと以上のように議論を進めてきた大塚議員は、菅首相に、こう水を向けた。

「選考方法を厳しく見直さないと、身内のお手盛り、既得権集団がポストをたらいまわしにしているという批判は免れない。こういう中で初めて先例によらず推薦者全員を任命しない決断をされた。やれば既得権集団から強い反発が出てくることはあらかじめ予想されたこと。難しい判断、どのような思いで決断されましたか」

菅首相はしたり顔でこう答えた。

「私自身も官房長官当時から、この選考方法に懸念を持っていた。…会員約200人、連携会員約2,000人とつながりを持たなければ全国で90万人の方が会員になれないような仕組みになっている。ある意味では閉鎖的で既得権益のようになっているのではないか。正直言ってかなり悩んだが、推薦された方をそのまま任命する前例を踏襲するのは今回はやめるべきだと判断した」

なにか、よほど日本学術会議がブラックな集団であるかのごとき言いまわしだ。

この質疑で、はっきりしたのは、菅首相がいかに今回の任命拒否についてじっくり考えを巡らせていたかということである。「正直言ってかなり悩んだ」という言葉がそれをあらわしている。

11月5日の参院予算委員会では、二之湯智議員(自民)にこう答弁した。

「以前は学術会議が会員候補者名簿を提出する前に、さまざまな意見交換がおこなわれるなかで、内閣府の事務局と会議の会長との間で一定の調整が行われていた。一方、今回の任命に当たってはそうした調整が働かず、結果として学術会議から推薦された者のなかで、任命に至らなかった者が生じた」

2017年の会員半数改選にあたり、当時の大西隆会長を呼んで、杉田官房副長官らが説明を聞いたこと。今年、すなわち20年の改選では、当時の山極会長にいっさい声をかけなかったことを指しているのだ。なぜ山極会長に説明を求めなかったかは謎だが、「前例を踏襲するのは今回はやめるべきだと判断した」という、菅首相の答弁からみて、いちどは任命拒否という行為そのものをやってみたかったのかもしれない。

さて、ブラックボックスだの既得権集団だのと罵倒された日本学術会議では、梶田会長が記者会見し、若手の研究者が会員になっていないとか、会員の出身大学が旧帝大に偏っているという菅首相の指摘に反論した。

「若い研究者に学術会議に参加して活動をお願いすることが本当に望ましいことなのかはきちんと考える必要がある。…若い研究者は専門分野の研究に専念するもの」「大学には規模や性格の違いがあるため、偏りが出るのは自然だ」

もっともな考えだが、この反論はいささか紳士的すぎる。外された会員候補6人を任命するよう、要望書を菅首相に手渡しているのに、ナシのつぶてだ。どうしても任命しないというなら、その理由の説明を再度、強く求めるべきである。

だいたい、今の会員選考方法にしても、学術会議が勝手に決めたものではない。政府の思し召しで、二度の法改正を経ているのだ。

戦前への反省から学術会議が平和を希求するのはあたりまえのこと。だから1954年に原子力研究の是非をめぐって激論を交わしたさい、原子力平和利用三原則をつくって国に要求した。その後も、長きにわたり科学的知見からの政策提案を行った。

ところが、1980年代半ばになって、日本学術会議の活動が偏向しているとして、政府から圧力がかかりはじめた。ターゲットにされたのは会員選考制度だ。

一度目の法改正では、それまでの選挙制をやめ、各学会の推薦によって会員を選ぶことになった。しかし、この変更によって、会員が選出母体の学会の代表として振る舞う傾向がみられるようになったため、2005年に再び法改正で会員選考制度が変わった。現行のコ・オプテーションである。

 

現役の会員(210人)と連携会員(約2,000人)が、会員候補者と連携会員候補者を合わせて5名まで推薦するという制度だ。身近な人は推薦しないなどのルールがあるようだが、大西隆元会長はこれを手放しで肯定はしていない。

「現役会員が次期会員、連携会員を選考すれば、同質的な集団が再生産されていくという傾向が生ずるのは否めない」と自著で述べ、広く各学会から情報を得て選考に生かしていく必要性を説いている。

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