80カ国に達した中国包囲網。バイデン新政権が狙う反中統一戦線

 

王毅外相の訪日で日本に突きつけられた踏み絵

しかし、アメリカや英国、フランスとは違い、インドネシアやベトナム、フィリピンなどの国々は、安全保障上の脅威という点では反中国統一戦線に加わっていますが、中国がもたらす経済的・技術的な恩恵を受けて、あえて全面的な対立姿勢はとらず、米中の狭間でゲームをしているようにも見えます。

もちろん、中国も黙って批判されてはいませんし、反中国統一戦線の形成を許すわけではありません。

アメリカが政権移行の端境期にあり、かつ次期政権の基盤もできていないうちに、周辺諸国を抑えにかかっています。その一例がHuaweiの5G技術とノウハウという【通信インフラ】を迅速にアジア各国に広げることで一大情報圏を作ろうとしています。

ベトナムとシンガポールではHuaweiは採用されていませんが、インドネシアやマレーシア、フィリピン、タイ、そしてミャンマーではあっという間にHuawei製の5Gが通信インフラとしてパッケージ化されて採用され、それらの国は、非採用国に比してあからさまに中国からの援助や協力において優遇されています。同じ現象がエチオピアやケニア、ウガンダなどでも見られますし、サウジアラビアやUAEをはじめとする中東諸国でも、Huawei製かどうかはまちまちですが、中国のシステムによる情報通信インフラ網に与する動きが出ています。

欧米では、トランプ大統領の呼びかけに呼応し、また香港国家安全維持法やウイグル自治区での人権問題などを引き金に、Huawei製の排除に乗り出していますが、いわゆる途上国では中国の迅速な作戦が功を奏しており、中国包囲網の結束については大きな疑問が残る現状になっています。

それに加えて、中国が世界各国、特に欧米諸国に揺さぶりをかけたのが、12月1日に中国政府が打ち出したのが中国輸出管理法の施行です。

具体的な対象は明かされていませんが、「いかなる国や地域も輸出規制を濫用する場合、中国は対等の措置を取ることが出来る」という一文が示す通り、海外、特に欧米諸国が主導する対中国貿易規制への反抗措置と理解できるでしょう。

日本を含め、主要な工業国が中国に依存する“もの”といえば、COVID-19のパンデミックで明らかになったマスクや医療物資といった戦略物資、ハイテク技術、そして中国が世界の生産シェアの6割以上を占めるレアアースが挙げられますが、仮にそれらがこの法の対象になった場合、まだ中国離れの体制が出来上がっていない各国産業にとっては大きな痛手となり、中国に大きく強大な戦略的なカードを与えることになります。

バイデン氏がアメリカの新大統領になる可能性が高いと看做されてから一気に脱炭素の機運が加速しましたが、その目玉になっているのが電気自動車(EV)や、太陽光発電や洋上風力発電と組み合わせて使われる蓄電池技術などバッテリー技術ですが、その製造のための材料となるレアアースこそが中国からの輸出品です。パリ協定の実施、脱炭素型社会・経済の推進といったエリアでは、バイデン新政権の下、米中は協力するものだと思われていますが、その出鼻をくじきかねない大きな踏み絵が、今、“反中国統一戦線”のメンバー国に突き付けられています。

それは日本も例外ではありません。それを知ってか、11月24日に王毅外相が日本を訪問し日中外相会談を行いました。

「日本と中国は同じ海を共有する不可分の関係」と日本を持ち上げ、そして急転直下、時期尚早だと考えられていた両国間のビジネス往来の再開に合意しました。

王毅外相自身、この時期に訪日するということは、北京に帰国後、例外なく14日間の隔離措置が課されるにもかかわらず、あえてそれを厭わずに訪日したということで、日本に経済・ビジネス面で恩を売り、日本企業の中国依存度を高める狙いと共に、日米間に楔を打ち込み、言葉は悪いですが、日本に“過剰な反中体制を慎むよう”に迫ったものと考えます。突如、習近平国家主席が持ち出したTPP11への参加表明も同じような目的でしょう。以前から懸念していた【中国か米国か】という踏み絵が、ついに中国からこの時期に突き付けられたとも言えるでしょう。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

print
いま読まれてます

  • 80カ国に達した中国包囲網。バイデン新政権が狙う反中統一戦線
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け