「GoToで感染拡大」の論文を軽視、学問に敬意を払わぬ政治家たち

kawai20201216
 

遅きに失した感はあるものの、ようやく一時停止が決まったGoToトラベル。当キャンペーンについては、東大などの研究チームが発表した「利用者のほうが新型コロナへの感染リスクが高い」とする論文の解釈をめぐり激論が交わされましたが、識者はどう見ているのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では著者で健康社会学者の河合薫さんが、学問の世界に身を置く者としての意見を記すとともに、研究結果について詳しく解説しています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

「GoToで感染拡大」をめぐる調査研究の誤解

今回は「研究論文をめぐる誤解」について、あれこれ書きます(長いです)。

先週の8日に、「GoToトラベル」を利用している人は新型コロナへの感染リスクが高いとする調査結果を、東京大学などの研究チームが発表したことが話題になりました。

しかし、その結果をめぐり、さまざまな解釈の誤りと報道が相次いだので、研究者の端くれとして意見&説明しようと考えた次第です。

件の論文のタイトルは「Association between Participation in Government Subsidy Program for Domestic Travel and Symptoms Indicative of COVID-19 Infection(河合訳:国内旅行のための政府の補助金プログラム参加とCOVID-19感染を示す症状との関連)」で、東京大学大学院の宮脇敦士助教などの研究チームが調査・分析を行っています。

そもそも本研究の目的は、シンプルにいえば「コロナ感染拡大をおさつつ、最大限経済を活性化するための示唆」を得ることが目的です。

そうです。示唆、implication。あくまでもこの研究結果から読み取れることを研究者が提言したもので、「決定的な事実」ではありません。しかし、今回に限らず、研究者の調査研究は「世の中を良くするため」に行われています。だからこそ、先行研究をレビューし、バイアスをできる限り排除できるサンプルを選び、調査項目を精査し、可能な限り確証が得られる分析方法を取捨選択する。

そして、得られた結果を有効に役立たせるための考察を行い、ネガティブデータに注目することも恐れず、研究の限界を考慮するのです。

メディアは「断定とわかりやすさ」を好みますが、学問には不確実性がつきまといます。研究者の話がわかりづらいのはこのためです。

こういった「前提」を理解した上で、研究結果を知ることが大切なのです。

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