原価率を上げて、顧客満足を得る
国内生産がメインだった頃、婦人アパレルの原価率は35%前後だったと思う。そして、小売価格も現在の3~4倍の水準だった。
縫製工場の立場は現在より強く、面倒なデザインを持っていくと、嫌な顔をされたものだ。
中国生産が始まって、製品を安く作れるようになった。どんなに面倒なデザインでも嫌がらずに引き受けてくれた。
中国生産により、アパレル製品の小売価格は下がり、原価率も25%程度まで下がった。アパレル企業は儲かると思ったのだが、結果をみると、価格競争が激しくなり、小売価格の相場が下がったために、市場が収縮し、アパレル企業の売上、利益共に下がっていった。
「原価率を下げる」ことは、「自社の利益を上げる」ことである。「原価率を下げろ」という指示は、まず自社の利益を確保しろ、という意味だ。
しかし、顧客にとって原価率を下げた商品とは、割高な商品という意味だ。コスパが悪い商品である。
ユニクロやしまむらの原価率は、一般アパレルよりも高く、40%程度である。つまり、コスパが良い商品ということになる。
コスパの悪い商品とコスパの良い商品を比較すれば、コスパの良い商品が選ばれるのは当然である。
ブランド価値がある商品ならば割高でも満足できるかもしれないが、欧州のラグジュアリーブランドのようなステイタスを持つブランドは皆無に近い。
私は一般アパレルは原価率を上げ、質の良い商品を作るべきだと思う。では、どうすれば原価率を上げることができるのか。
たとえば、プロパー販売比率を上げれば、原価率を高く設定できる。
小売価格を上げても顧客が満足できる商品なら原価率を上げることができる。
社内の経費をカットすれば、原価率を上げることができる。トータルな流通コストを削減すれば、原価率を上げることができる。また、生産数量を増やせば、原価が下がるので、原価率を上げることができる。
単純に商品原価を下げようとすると、生地の質を落し、縫製レベルの低い工場に委託することになる。もちろん、商品の質が下がるのだ。
中国の人件費が上がるのに、日本のアパレル製品の価格は上がらなかった。その分、商品の質が落ちているのだ。だから、原価率の高い企業に負けているのである。
そんな現状を改善しようとせずに、「原価率を下げろ」という指示を出すことは、自分の首を締めているのに等しいのだ。
コロナ以前には戻らない
コロナ禍で、アパレルビジネスは激変した。その変化に対応するには、在庫の持ち方、商品の考え方、商品の訴求ボイント、セールのあり方、リードタイムの設定、店舗販売とネット販売の比率、業務フロー等々を見直し、会社の体質を変えなければならない。
本来ならばその準備を、百貨店が閉まっていた3カ月の間に済ませなければならなかった。
もちろん、不採算店の閉鎖、不採算ブランドの閉鎖等は不可欠だっただろう。とにかく、赤字をくい止めなければ、会社は倒産してしまうのだから。
しかし、同時にアフターコロナのアパレルのあり方を考えなければならない。
その前提は、コロナ以前には戻らないということだ。なぜ、戻らないかといえば、コロ
ナ禍の赤字はなくならない。そして、消費マインドが回復するにはかなりの期間が必要に
なるということだ。
たとえ、ワクチンができても、景気は更に悪化するに違いない。そして、多くの企業は倒産する。
従って、仕事のやり方を変えなければならない。にも関わらず、現在のアパレル企業は「在庫を持つな」「原価率を下げろ」という従来の指示を繰り返しているのである。
このままでは、確実に淘汰される。しかも、淘汰されても誰も困らないだろう。というより、会社やブランドがなくなったことさえ、顧客は気がつかないのではないか。
仕事とはマニュアルとルーチンでできているのではない。市場の変化を観察し、自分の頭で対策を考え、勇気を持って仕事のやり方を変えなければならない。
そういう意味では、コロナは変革する大きなチャンスでもあるのだ。
編集後記「締めの都々逸」
「どうにかしろと 命令されて どうすりゃいいか 分からない」
「まず、自社の利益を確保しろよ」という指示は何も言っていないのに等しいと思います。「売上を上げろ」「利益を上げろ」「原価率を下げろ」「消化率を上げろ」「在庫を減らせ」等の指示は同じことを言っているだけです。
どのように経営指標を改善するか、という戦略が問題なのです。そして、具体的なアクションを指示しなければなりません。
自分が分からないことを部下に丸投げするようでは、管理職の資格はありません。存在意義もありません。
多くのアパレル企業で、「在庫を持つな」「原価率を下げろ」という指示が出ていると聞いた時、本当にがっかりしました。何も考えていない。何も勉強していない。これでは生き残れません。そんな憤りで書き進めた次第です。悪しからず。(坂口昌章)
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