習近平のスーチー潰しか。中国がチラつくミャンマー軍事クーデター

 

米中の“いいとこ取り” で4大国際通貨の獲得に成功

欧米および国連などからクーデターへの非難が高まる中、ミャンマーが位置するASEAN各国は、懸念は表明するものの、あくまでも“内政不干渉”の原則に基づいて、国軍に対する辛辣なコメントは控えています。

例えば、お隣のタイ王国は、ちょうど国内で大規模なデモに直面しており、その矛先は軍主導型の政府と王室に向いています。今回のミャンマーにおける国軍の行いに対して政府がコメントすることで、そのまま批判が自らに跳ね返ってくる恐れから、沈黙を決め込んでいる様子です。

インドネシアやシンガポール、マレーシアなどは「一刻も早い状況の鎮静化を望む」程度のコメントに留めていますし、フィリピンについては完全に突き放しています。

またベトナムも、現在、国連安全保障理事会の非常任理事国を務めていますが、2月2日に開催されたオンラインでの安保理緊急会議(英国の呼びかけによる開催)では、中ロと共に「結論を急ぐべきではない」とコメントし、ASEANが定める内政不干渉の原則に従った模様です。

NLDへのシンパシーと国軍の行いへの批判が存在するのは、ASEANのメンバーではないインドのみです(そして遅ればせながら、日本も今回のクーデターを引き起こした国軍を非難しています)。

ASEANはどうしてお隣の国ミャンマーとこんなに距離を置くのでしょうか。

その理由の一つに、欧米と中国の“綱引き”に見事に巻き込まれているASEAN諸国の事情があります。

南シナ海における中国の領有権問題では真っ向から対立し、中国の力の伸長を恐れる半面、一帯一路政策を通じたチャイナマネーと経済力の恩恵も受けているのが東南アジア諸国です。

安全保障上の懸念が燃え上がった際、東南アジア諸国はアメリカを頼りにしましたが、その際の政権の主はトランプ前大統領で、口先では“アジアシフト”を唱えつつも実際には東南アジア軽視の側面が鮮明でした。

「アメリカは口先だけで頼りにならない」と判断した各国は、米中の狭間で“いいとこ取り”を念頭にした方針に切り替えました。

コロナのパンデミックに際して、中国からの医療戦略物資やワクチンの提供を受けることで密接な関係を演出しながら、自国の安全保障については、米艦隊の通過を黙認することで、アメリカへの依存を維持したと思われます。

同時に、欧米諸国からの投資や企業の進出は、これまで通りに歓迎し、ドルとユーロ、中国元、そして日本円という4大国際通貨の獲得に成功しています。

それは、今回、クーデターに見舞われ、再び世界の注目の的になったミャンマーも例外ではありません。

先述の通り、オバマ政権下で民主化を勝ち取ったミャンマーは、その後、世界最後のフロンティアと目されて、海外から多くの投資を惹きつけてきました。アメリカも欧州各国も、そして日本も挙ってヤンゴン、そしてネピドーに進出し、残された果実を得ようとしてきました。

その機運が一気にしぼむ結果になったのが、2017年に“発覚”した国軍による少数民族ロヒンギャ族への武力行使と虐殺・虐待の事件です。

本来はその問題を十分に承知していながら、国軍との軋轢は自らが目指す憲法改正と民主化プロセスを後退させる可能性があると認識して、国際法に違反する可能性があると言及しつつも、スーチー女史は「虐殺はなかった」と国軍に配慮する選択をしました。

その結果、投資条件の中で人権を重んじる欧米諸国からの投資熱は冷め、その穴を埋めるために隣国である中国が代わりに進出してきました。

一帯一路政策の重点国に認定し、ミャンマーにおいて鉄道や港湾、発電所などのインフラ事業の支援を拡大集中投資し、その見返りに外交的な支持を取り付けるという戦略に出ました。ごく最近までは「ミャンマーはすでに中国の衛星国になった」という噂まで流れたほどの密接ぶりです。

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