習近平のスーチー潰しか。中国がチラつくミャンマー軍事クーデター

 

習近平の思惑

先述の通り、2017年のロヒンギャ問題以降、欧米がミャンマーへの投資を渋る中、一気呵成にミャンマーへの接近を図り、実際に支援の手を差し伸べたのは中国でした。

しかし、アウンサンスーチー女史が率いるNLD政権は、次第に高まり続ける中国の影響力と、それに伴う支配への警戒から距離を置くケースが増えてきました。地政学上の戦略的な位置を米中対立の狭間に置くことで、中国支配の伸長に歯止めをかけたいとの思惑も見え隠れしました。

つまり、中国依存からの脱却です。

NLDの心変わりを受け、東南アジアや南アジアへ抜ける要衝としてのミャンマーを自らの陣営に留め置くことが、中国の一帯一路政策、そして影響力(支配力)の西進には不可欠と踏んだ中国・習近平政権が、今回の国軍によるクーデターと政権奪取を“黙認”したのではないかと思われます。

表面的には、「隣国として、友人として、一刻も早く情勢が落ち着くことを望む」という中立的なコメントに終始していますが、国連安全保障理事会をはじめとする国際舞台においては、“盟友”ミン・アウン・フライン総司令官およびその政権にネガティブな影響が及ばないように、ことごとく対ミャンマー批判・クーデター批判をブロックして、“支援”しています。

隣国の安定という安全保障上の関心ももちろんあるかと思いますが、国内に、ミャンマー同様、国際社会から批判される人権問題を多く抱える中国としても、ミャンマーに恩を売っておくことで、国際的な批判から身を護るための味方を得るという別の目的も果たすためには、関係維持を重んじた国軍をサポートするという決定に至ったのでしょう。

加えて、先述の通り、IMFからミャンマー政府に異例のスピードで提供された合計7億米ドルの緊急支援(対コロナ)を、ミャンマーの対中債務の返済に充てるという“密約”が国軍と中国政府の間であったのではないかとさえ勘繰りたくなるほど、見事なタイミングでの政権奪取とクーデターだったように感じます。

国軍は、政権奪還後、アウンサンスーチー女史をはじめ、NLDの幹部に対して次々と訴追を行い、国民に対して「あなたたちが信じてきたNLDは、隠れて私腹を肥やしていた」といったネガティブなイメージを与えようとしているように思われます。

NLDのメンバーで、軍によって拘束された人たちは、皆、自宅軟禁に切り替えられましたが、これも国軍側のイメージ戦略ではないかと思います。あくまでも「状況を平常に戻そうとしている」というイメージを与えることで、国内外の批判、特に国内で予測される大規模デモと国軍との衝突による被害に備えようとしているように見えます。

現時点では、暴力的な反発には繋がっていませんが、スーチー女史たちの拘束と軟禁が1年ほど継続すると見られていることから、ミャンマーの安定は失われたものと思われます。そして、その結果、ロヒンギャ問題の解決も遠のいてしまったと言えます。

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