首相時代から“ミスター舌禍”森喜朗氏に丸投げした日本社会の問題点

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五輪組織委員会会長を辞任した森喜朗氏の女性蔑視発言の問題では当初、自民党の世耕議員などが「余人を以て代え難い」として、辞任の必要はないと意見を述べていました。昨年の検察庁法改正問題でも用いられたこの文語表現について、公的組織の人に対して使っていい言葉ではないと、メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんは訴えます。こうした細かい言葉の使い分けができないから舌禍まみれの人を不向きな任に就かせてしまい、国際社会からの批判も森氏個人だけに向いているのではないと、関わりのある人たちに向けて、戒めの文語表現を送っています。

『余人を以て』のこと

森喜朗東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長が辞任することとなり、その後任人事とともにその当然の余波として大会開催の是非まで含めて議論されるようになったのは、少なくともいいことのように思う。

これまではどこの報道機関の調査でも「開催すべき」「延期すべき」「中止すべき」の三択だとほぼ回答は三分の一ずつに分かれていたように思うが、いよいよ「延期すべき」の人たちも「強行開催」か「中止已む無し」のどちらかにその腹を決めなければならない時期となった。

私個人は「絶対中止」だが、ことがここまで進んでいる以上、結論が「開催」となっても仕方がないとは思っている。「ほとんどの人がそれを望むならそれでいい」くらいには納得するつもりである。

それにしても今までこの会長でよく組織委員会はやって来れたな、と今更ながら不思議に思っているのは自分だけだろうか。オリンピック・パラリンピックと言えば今やスポーツ界のみならず全世界のあらゆるイベントの中でも最大級のものである。その大会組織委員会会長ともなれば国内においてのみそれなりに通用すればいいような種類の肩書とは全く異なる。常に世界が相手であり、自分が発言・発信したことは数分のうちに世界中に知れ渡る、そんな立場である。最も不向きではないか!

思えば、この森喜朗という人は首相在任時から口を開けば舌禍といったタイプの政治家であった。それこそ枚挙に暇がないほどである。確かに日本のスポーツ界の発展には多大なる貢献をして来たのも事実であろう(例えば2019年ラグビーワールドカップ日本大会の招致など)。そういった功績の一方でアスリート個人を傷つけるような発言を平気でしたりもした。

この人はどう考えても、アスリートファーストの人ではない。スポーツ界、業界、団体、協会、元アスリートたち、といった組織(敢えて悪く言えば、既得権益集団)第一主義の人なのである。言うなれば「多様性」というものの正反対に立場するような人である。

今やオリンピック・パラリンピックは「平和の祭典」と言う以上に「多様性の祭典」と言うべきものである。やはり、この人は根回しにのみ動いてトップとして立ってはいけない人であった。

「余人を以て代え難い」。この文語的表現を一年の内に二度も聞くことになった。最初は雀狼検事、今度がミスター舌禍である。もう大概にしてもらいたい。元来「余人を以て代え難い」とは芸術家などに使うべきなのであって、公的組織に属する人に対して使っていい言葉ではない。

なぜなら、その人一人がいないだけで立ち行かない国や組織はもう滅びかけということになるからだ。これだけは断言できる。この社会の中でそんな格別な超重要人物などいない。事実、今現在何の問題もなく検察庁は「余人を以て」機能しているではないか。

大げさな文語表現で一個人を守ろうとするなどバカげている。実際、今度の舌禍事件に関しても森氏個人と言うよりは、それを許して来た、あるいはこれからも許そうとする日本の組織運営のあり方自体を国際社会は批判しているように見える。

「駟も舌に及ばず」(『論語』「顔淵」)。これは当該の人物だけのことではない。その周囲の人にも言えることなのである。

image by:Ned Snowman / Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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