5月には餓死者発生か。外交官も逃げ出す北朝鮮“物資不足”の深刻度

 

「人民中心」を強調した金正恩がチャンマダンの完全閉鎖を命じたのは、「国営商業を発展させ、給養(食堂)、便宜奉仕(美容、サウナ、各種理容店、手工業など)の社会主義の性格を復旧するのが今の時期は非常に切実であると想定した」と、非社会主義との闘争を宣言したもので、個人の食糧取引を禁止し、国家食糧販売所を別途に設けるというものである。

これは北朝鮮の権力者が長年の命題であった「食べる問題の解決(北朝鮮では衣食住ではなく、食衣住である)」を、国民の犠牲のうえに実現しようとするものである。

チャンマダンは、金正日政権下で2002年の「7.1経済管理改善措置」で公式化したもので、以後、北朝鮮経済はチャンマダンと中朝貿易で回ってきたとも言われる。北朝鮮の公式の職場での給料は生活費の1%にも満たず、事実上「全住民が商人」で、北朝鮮のGDPの50%占めると言われる所以(ゆえん)でもある。

このチャンマダンの閉鎖は、住民間の情報の流入を遮断する意図もある。「独裁者が恐れるのは人民」と言われるが、食料の取引だけではなく、個人の理髪店、美容院、家庭教師なども禁じるとのことだが、チャンマダンの完全閉鎖は、住民の「命綱を断つ」措置とも言われているが、今のところ、どの程度までに実施されているのか。「モノ言えば唇寒し」の北朝鮮とは言うが、チャンマダンが閉鎖されたら北朝鮮の住民も黙ってはいないだろう。

「物資不足(もの不足)」は自国民ばかりでなく、自国に友好的な外国大使館や国連援助機関の職員と家族までも巻き込んでいる。もっとも、ロシア下院国際問題委員会のノビコフ第1副委員長は「難しい条件下でも耐え抜く北朝鮮の能力を過小評価すべきではない」と指摘し、金正恩体制の動揺につながるとの見方は否定したとのことだ。しかし、北朝鮮から遠く離れたモスクワに住むこの専門家は、北朝鮮の現状をどれだけ目の当たりして、このような発言を行ったのだろうか。

4月15日は、北朝鮮では最大の慶祝日である故金日成主席の誕生日を祝う「太陽節」である。2月16日の故金正日総書記の誕生日には国民に下賜された「贈り物」は微々たるものであったが、この4月から中朝貿易が再開されたとも伝えられており、今度の「偉大な首領様の誕生日の贈り物」に多くの北朝鮮国民は期待しているだろう。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)

image by:Torsten Pursche / Shutterstock.com

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