菅首相が招く「五輪地獄」の悪循環。ことごとく外れる希望的観測

 

米国訪問も失敗

本誌は前々号「NYタイムズも言い出した五輪延期・中止。訪米に浮かれる菅政権の末路」で「不要不急の外遊なんかしている場合じゃないでしょう、菅さん!」と書いたが、菅にしてみればこれもまた何とかして五輪を開きたい一心から発した賭けだったのだろう。

しかし、ことごとく当てが外れて3球3振のような、ちょっと前例が思い浮かばないほど惨めな日米首脳会談だった。

  1. 事前に「ランチ、出来れば夕食会を」と申し入れていたが断られ、テタテ(通訳のみが同席する1対1会談)の時にハンバーガーが出ただけだった
  2. そのテタテも、“個人的な親密さ”の演出のため日本側がお願いをして実現したものではあるけれども、時間はわずか20分間、通訳時間を差し引けば10分間で、お互いの家族のことなど紹介しあっただけというから(菅は自分の長男をなんと説明したのだろうか?)、せっかくのハンバーガーを口にする暇もなかったようだ
  3. 特に菅は、バイデンから「五輪開会式には是非訪日したい」とか「米国は必ず大選手団を送る」とかの一言を引き出すよう、駐米大使に厳命していたが、老獪なバイデンがこの状況でそんな言質を与えるはずもなく、菅の五輪開催への「努力を支持する」という寂しい言葉を得ただけに終わった
  4. 米ファイザー社のブーラ会長との電話会談というのも、菅がすがる思いで盛り込もうとした演出がずっこけた結果だった。以前に河野太郎ワクチン大臣がブーラと交渉しようとした際、先方から「交渉相手は菅総理大臣だ」と言われた。それを聞いた菅は、ワクチン確保の先頭に立っている自分をアピール出来る絶好の機会と捉え、ワシントンでブーラと直接会えるよう大使館に段取りを命じた。しかし、いま世界中の首脳の誰もが一番会いたい相手であるブーラは尊大で、大使館が懇願し、最後は相当の金額を提示したものの、ニューヨーク42番街の本社から菅に会うためにワシントンに赴くことを拒んだ。それで電話をかけるのが精一杯となった

菅は訪米してから直接会談がセット出来ていないことを知って大使を叱責したそうだが、イスラエルのネタニエフ首相のように世界のどの首脳より先に自分で電話をし、「イスラエル国民の治験結果の全データを提供するから」と言ってワクチンを確保した強か者もいるというのに、先方からすれば「今頃何を言ってるんだ」という扱いになるは当然と言える。

従って菅は、ブーラと会えると思って訪米したわけで、「電話なら日本からでも掛けられたろうに」というのは結果論なのである。

帰国後に菅は、「16歳以上の全国民の分を9月までに供給される目処が立った」と述べたが、本当に確約を得たのか、契約を交わしたのかという野党の質問には「詳細は差し控える」と逃げている。また4月23日には「7月末を念頭にすべての高齢者の2回接種を完了する」と宣言し、事前に聞いていない関係閣僚はじめ市町村をビックリさせたが、菅の頭の中ではすでに、感染症法の規定上これまでこの戦争に参加していなかった大学病院や歯科医師を引っ張り出し、自衛隊にも出動を命じて何が何でも突き進む図柄が出来ているのかもしれない。しかしそれは内閣としても政府としてもきちんと議論されておらず、彼の単なる思いつきの寄せ集めのようにも見える。

ちなみに、東京五輪の位置づけは、当初は「大震災からの復興の象徴」だったが、コロナ禍が起きてからは「人類が感染症に打ち勝った証し」という、それこそ「その日までに何とかコロナ禍を克服したい」という“希望的観測”を込めたものに変わった。それが今回の日米首脳会談では「世界の団結の象徴」に再改定された。その意味合いは、五輪までにコロナ禍を終わらせるという目標を放棄する、すなわち「コロナ禍の中での五輪」とならざるを得ないという告白にほかならない。

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