菅首相が招く「五輪地獄」の悪循環。ことごとく外れる希望的観測

takano20210507
 

世界がその開催を危ぶんでいる東京五輪。冷静な判断基準をもってすれば「延期もしくは中止」が妥当だと思われますが、なぜ政権はここまで開催に固執するのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、現状の政府のコロナ対策では感染拡大は抑えようもなく、そのような状態で無理やり五輪を開催したとしても「一大感染イベント」となるのは避けられないと指摘しつつ、それでも菅首相が五輪開催を強行しなければならないウラ事情を記しています。

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※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年5月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

やることなすこと裏目に出る菅政権の断末魔――感染爆発で五輪中止の最悪シナリオも

4月21日に官邸で開かれたコロナ対策のための主要閣僚会議で、菅義偉首相は当初、「緊急事態宣言より飲食店の時短要請をすればいいんだ」と宣言そのものに反対した。田村憲久厚労相らが「ダメです」と迫る中、渋々宣言そのものには同意したものの、期間を出来るだけ短くすることを求め、その結果、わずか17日間となった。しかも、内容は相変わらず外出自粛と店の時短だけで、新たな脅威となっている変異種への特段の検査体制強化策も、専門家が前々から提言していた実効再生産数を基準とした科学的な各種規制の緩急管理システムも、退けられた。なぜなら、菅の頭の中では、5月17日のバッハ来日までに感染の勢いが衰えていなければならないという“希望的観測”で一杯だったからである。

これは、1月8日に発動した2回目の緊急事態宣言を、3月25日の聖火リレー開始の4日前に無理に解除した結果、各地で公道を走るのを取りやめたり、もはやリレーと呼ぶのも難しいほどの惨状に陥ったのと同じ過ちの繰り返しである。

菅が「最後の決め手」と信じているワクチン摂取についても失敗の連続で、まだワクチンそのものがろくに確保できていない段階の2月24日に、何の根拠もなく、つまり“希望的観測”で、「高齢者向けの接種を4月12日から始める」と言ってしまったために、市町村は「まずは医療関係者から」という方針をねじ曲げて、格好だけでもいいから高齢者への接種を始めているフリをしなければならなくなった。そのため480万人の医療関係者への接種は余計に遅れ、現状で2回目接種を終えたのはわずか2割。そのため、未接種の医師・看護師が高齢者の接種を担当するという倒錯状態も起きている。

このままでは感染拡大は抑えようもなく、仮に無理やり五輪を開いたとしても、NYタイムズが警告した通り「一大感染イベント」となってしまう危険を避けることは難しい。

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