人民より軍優先。金正日が土地に適さぬ窒素肥料を支援要求した裏事情

 

今から30年近く前の話であるが、北朝鮮から日本に「農業研修団」という名目で、農業問題の専門家たちが来たことがある。彼らは青森県のある農業試験場で「我が国の東海岸部の稲作地帯では、日本でいう“やませ”の被害が大きいです。当試験場はこの冷害に強い“藤坂5号”を発明したと聞いております。ぜひ、その種籾を寄贈願えないでしょうか?」と聞いてきたので、試験場では「種籾も一種の武器類にあたります。国と相談しなければなりませんが、たぶんダメでしょう」と、種籾の供与を断ったことがあった。

私はこの研修団がこの試験場を訪れた1か月後に行って、試験場の場長などからこの一行の視察動向などを聞いたことがある。どうやら、彼らは当然のごとく種籾を供与してくれるものと思っていたらしく、拒否されたときには、気まずい雰囲気だったとのこと。

後に私が日本中を講演で回るようになったとき、種苗で有名な“Tイ種苗”の社長さんからだったか、「いやあ、先生、あの国に大量の種苗を寄贈したんだが、ありがとうの一言もなかったです」と言われたことある。

「米は共産主義」「米櫃に米が足りてこそ共産主義革命は達成する」「農業第1主義」などと喧伝してきたが、金王朝がまともに農業問題に対処してきたとは思えない。

最後に日本人はもとより、日本政府関係者も一部の者を除いては知らない事実を一言。日本政府は平成7(1995)年6月、10月に計35万トンの有償コメ支援を実施し、最初の10年間はコメ代金の利息分のみを支払い、その後、20年間で元利返済すると契約した。しかし、北朝鮮は翌1996年に8,400万円を支払ったのみで、それ以降は毎年約1億1,000万円の利息分が未払いとなっており、その利息にかかる延滞利息を加算した結果、滞納総額は2001年8月末までに5億9,000万円に達した、と東京新聞は伝えている。

食糧庁は、北朝鮮の支払い窓口である国際貿易促進委員会に対し、これまで毎月1回、計53回の督促状を出しているが、返答はないとのこと。日本の北朝鮮への米の支援は1996年以降は国連世界食糧計画(国連WFP)を経由して行われているが、このWFPの事務所も今年3月には平壌を引き払ってしまった。北朝鮮はこれからどこから食糧支援を受けるというのか。

アジアプレスに「北朝鮮内部からの報告──<北朝鮮内部>全国一斉に『堆肥戦闘』に突入 金正恩氏の号令に幹部ピリピリ 人糞泥棒まで出現」(2021年1月28日)とあった。さらに、同アジアプレスは「<北朝鮮>文大統領を『アホ』『口に糞を注ぎたい』と激しく罵倒 入手文書に明記 住民に増悪を教育」(2020年8月17日)と、人糞に例えて文在寅大統領を非難しているようだが、私も「空にはミサイル弾を、田んぼには糞尿弾を」という言葉をよく使っている。北朝鮮の今年の食糧難は、誰もがお見通しのことと思う。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)

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