日本が抱える安全保障や危機管理の問題点を専門的な見地から指摘し、数多くの提言を続ける軍事アナリストの小川和久さん。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、ロシアの軍事的な脅威に備えてノルウェーと米国が結んだ防衛協力補足協定が、日米地位協定改定交渉の参考になると伝えています。さらに、同協定が中国の脅威を抑止していくにも有効であるとして、政府に締結への動きを求めています。
参考になるノルウェーと米国の補足協定
このところ、コロナへの対応のまずさを通して日本の安全保障の在り方に危機感を強めていたのですが、今回もまた、日本の外交・安全保障にとって参考になる情報をお届けしたいと思います。5月6日号のミリタリー・アイ「対ロシア戦略拠点化するノルウェー」で西恭之さん(静岡県立大学特任准教授)が教えてくれたノルウェーと米国の防衛協力補足協定がそれです。
この補足協定はロシアの軍事的な活動拡大を受けたもので、基地の共同利用に関する地位協定を補うものとして位置づけられています。参考になるのは、ノルウェーのソールベルグ首相が「基地の共同利用の拡大が、外国軍専用基地の設置も平時の核兵器配備も認めないノルウェーの伝統的方針に反しないこと、費用は米国が全額負担すること、米軍は恒久的に駐留しないこと」を確認している点です。
これは、とりもなおさずノルウェーと米国の共通の利益を前提に、ノルウェー側が国益の点から強く主張し、米国側を妥協させた結果です。交渉の過程で激論が交わされたことは容易に想像できます。
ノルウェーの例を見れば、日本も沖縄の米軍基地に象徴される日米地位協定の改定問題について、ノルウェーと同じように、強い姿勢で交渉できなければならないことは明らかです。日本政府に交渉力が欠けており、地位協定の改定を実現できない場合にも、ノルウェーのような補足協定を結ぶことはできるはずです。実現すれば、米軍基地問題について、沖縄県民の間に政府への信頼感も生まれてくると思います。それもできないようなら、日本は独立国家と名乗ることをやめたほうがよいでしょう。
ノルウェーと米国の補足協定は、中国に対する抑止力を高めていくうえでも大いに参考になります。西准教授は、ミリタリー・アイの中で「米軍専用基地を提供しない理由は、ノルウェーの主権を守るためだが、実は、第三国の武力攻撃や威嚇を抑止するためには、米国が現地国の基地を共同利用するほうが合理的だ」と述べています。ミリタリー・アイの文章を日本に置き換えれば、そのメリットは明らかでしょう。
「米軍が専用基地にしかいなければ、敵対的な国(中国)は、現地国軍(自衛隊)だけを攻撃して米国の反撃・来援を抑止しようとしたり、米軍だけを攻撃して現地国(日本)を中立化しようとしたりするおそれがある。基地を共同利用していれば、ノルウェー軍(自衛隊)と米軍のどちらか一方だけ攻撃することはロシア(中国)にも不可能となるので、より確実に攻撃と威嚇を抑止できる」
いくら中国の脅威を声高に叫んでも、それを抑止する手立てを強化していかなければ、空念仏に終わってしまいます。政府に、ノルウェー並みの補足協定の締結を求めたいと思います。(小川和久)
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