余りに酷い無理解。JR東海「リニア新幹線」計画が大地を“虐殺”する

 

非常口を4本掘り始めてすでに行き詰まり

長野県大鹿村では2017年から順次4本の非常口を掘り始めたが、この段階ですでに何もかもが行き当たりばったりであることが露見した。まず残土を搬出する橋が強度不足で架け替えなければならなかった。村外に通じるトンネルの拡張工事を急ぎ、発破による崩落事故を起こした。残土の持って行きどころに困って変電施設の建設予定地を仮置き場にしたら設備工事のめどが立たなくなった。「大した反対運動もないのに、計画がずさんで予定通りに進まず、自滅しつつある」と地元反対派が苦笑する。

しかし一度失った自然は二度と戻らず、たとえば鳥倉山の中腹の牧場では、水深が50センチほどあってフナ釣りができ、冬はスケートもできた池が3年前から干上がった。樹齢300年以上のブナが立つ場所は中部電力がリニアのための送電鉄塔の建設を予定しているが、地元の人々はそのブナの写真ポスターを作り、ウェブ署名「#リニアは理に合わない」を立ち上げてブナの保存運動を進めている。

以上、朝日連載から3カ所の場合を要約紹介したが、ここから見てとれるのは、JR東海側の「土壌」というものに対する余りに酷い無理解――土が生き物であることを知らず、砂場の砂のように好きに掘ったり積み上げたり投げ出したりしてもいいものだと思い込んでいる驚くべき幼稚さである。山と森と川と田畑と海は全体として共生しあっている1つの生態系であって、それを成り立たせている実体は、造園家で森林再生のためのNPO「地球守」代表でもある高田宏臣の『土中環境』(建築資料研究社、20年刊)によれば、「通気浸透水脈」である。

それは「大地を息づいた状態に保つ上で必要不可欠な、いわば大地の血管で、これが滞らずに巡ることで、いのちの循環の源である健全な土壌環境となる」。それが形成されるには、木々の根と菌糸の働きが重要で「菌糸が土中に張り巡らされると空隙が作られ、そこに根が進入し」て次第に深部にまで伸長し「土中深く空気や水を動かしていく」のである。

だから、ここにトンネルを掘っても水脈に当たらないとか、ここに直径40メートル、深さ90メートルの穴を掘ってコンクリートで固めの地下駅を作っても地盤沈下は起こりそうにないとかいった話ではない。どこをどう掘っても、「通気浸透水脈」はズタズタに断ち切られて土壌そのものの死が始まって取り返しがつかないというこの大地のジェノサイドを、列島中心部の1都5県にも及ぶ広域で許すのかどうかが問われているのである。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年7月5日号より一部抜粋・文中敬称略)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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