普遍の世界
最後に、大野耐一さんがどう感じていたのかをいくつか列挙します。
「会社には発明王の遺風が残っていて、無意識のうちに世界レベルがいかなるものであるかを知りえたように思う。その後、豊田喜一郎氏という先見性では比類のない人物にめぐりあうことができた。私の身辺には、世界的に通用する『普遍の世界』が開かれていたことになる」
「佐吉翁が、お婆さんが機を織るのを終日立ち尽くして見ていて、機の動く調子がだんだんとわかってきたこと、見れば見るほどおもしろくなってくること、この態度に感動した。私は口を酸っぱくして言っている対象物に5回『なぜ』を繰り返してみるという思考原則も、じつをいうと、佐吉翁のこうした態度に通ずるものである」
「“ジャスト・イン・タイム”の一言が、いく人かに一種の啓示を与えた。私も取りつかれた一人で、最初から現在にいたるまで取りつかれっ放しで。言葉自体、目新しかったが、引きつかれたのはその中身で。必要な部品が必要なときに、必要な量だけ、生産ラインの脇に同時に到着する光景は、想像するだけでも楽しいし、刺激的であった」
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